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詩)メモ帳(死んでしまった弟へ:追悼)


メモ帳

メモ帳は生きている
早朝の4時22分 目覚ましがなる
メモ帳 そこには
びっしりと細かい字で
今日のスープの準備 天ぷら うどんの仕入数
業者への連絡
朝7時の開店前に確認する時間ごとの確認事項
1時間ごとの出勤する人の数
気になる毎日の細かいこと
天気 
金額  出と入 採算点



男は仕事ないと苦しいでえ
やることないって、ほんま辛いで

それが口癖だった


メモ帳
スマホは最後まで使わず
損なことはわかっていても
やっぱり自分が責任を取って
後輩をかばって
独身の自分が辞めればいいんやと家族持ちの部下の代わりに 自分が責任をとって辞めた それから数年間失業 ほんとうはやりたい喫茶の仕事を封印するしかなかった 

よっこらしょと起き上がり 一張羅に着替え 店のカギを開け 電気をつけ 勤務表を確認し うどん屋の朝の仕込み仕事を始めるはずだった


死はあっさり 突然やって来たほんとうに               

残されたメモ

淡々と 

行間に                      

主張せず                   

事務的に                   

刻まれていた                 

男の誇り
      



2020年7月17日、弟の祐治が急逝しました。姫路駅の立ち食いうどん屋の店長でした。
58歳。心筋梗塞でした。
あまりにもあっというまの出来事で、慌ただしく葬儀、現実とは今でも思えません。
昨年の親父の葬儀で親族と久しぶりに会うことになり、沈みがちな雰囲気を明るくしていたのが祐治でした。
追悼の思いを込めて。




2022年に詩集を発行いたしました。サポートいただいた方には贈呈します