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弟の死顔は苦悶の暴悪大笑面であった
歪み  叫び  裂け  はみ出し
十一面観音の裏の顔
妻と二人だけの秘密にした 顔の上に写真を被せてもらった 死顔は穏やかな写真となった


「なんやその態度は!ええ!」少し身体が大きくて動きの鈍い店員に 客が怒鳴り続ける声が店に響く
立ち食いうどん屋の店内で 店員が立ちつくしていた

「お客さん帰ってくれるか。」
「なんやおまえ、客に向かって帰れっ言うんかあ!」
「お客様は神様とちゃうんか 何考えてるやこのボケ」
「うちの店はお客さんより店員の方が大切なんや。金は要らんから帰ってくれるか」
「なんやと !そんな態度でええんか! ネットでおまえの店のこと書いたるからな」
「書くならどんどん書いてもろてええで。どうぞどうぞ」
「こんな店 二度と来るかあ!」

「さあ仕事に戻って戻って」

 

今なあ ほんまに人の確保苦労するんや もう客は神様の時代ちゃうで 従業員が神様や 

弟の口癖だった あいつはちゃんと働く人の盾になる矜持を その胸に


いいのだと思う死顔が裏の顔でも 建前に囲まれて 最期まで無理に笑うより 

正直に死んでいく それでいいじゃないか なあ弟よ

2022年に詩集を発行いたしました。サポートいただいた方には贈呈します