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真夜中の高層マンションの最上階の非常階段
五メートルもあろうかという蝉が張りついて鳴いていた
青く筋の入った羽根はゆっくりと動き 癒えることのない疼きを
癒えるまで動ごかしている

地上では誰にも見てもらえない者達のデモ行進が行なわれている
シュレッダーで切り刻まれたゴミ 非正規で働く友
毎日誰かがしなければならないその仕事を「誰か」となってする者達
腹部にナイフが刺さったように 生きている
誰も誰かを否定せず
誰もが静かに蠢いている
デモ隊の隊列のひとりが空を見上げる
ビルの谷間の狭い空 高層マンションの先に点滅するオレンジ
何処か希望のかけらのような風を感じた
なにかの光
会話のない世界
靴ヒモを結びなおす
ここは世界じゃない

「抑圧されたままでいるなよ ぼくたちは三十一文字で鳥になるのだ」※

朝がくる  不自由な街は生きるためにあるだけの街となる
生きるためだけに 生きる
説明できない疼き
あの蝉はまだ青く筋の入った羽根を鳴らしているだろうか
ずっとずっと  癒える時が来るまで
今日も

※萩原慎一郎「滑走路」より

2022年に詩集を発行いたしました。サポートいただいた方には贈呈します