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青の前

SE 雑踏の音
   車の走る音

良太(MO)「青信号が点滅して、赤になる」

SE 車の音が止まる
   雑踏の音が小さくなる

良太(MO)
「そのほんの数秒だけ全ての信号が赤になる。その時、横断歩道の全ての人が止まる」

SE 雑踏の音が止まる

良太(MO)
「おとずれる一瞬の間。この瞬間はいつも自分以外の、時が止まったように感じる」

SE 雑踏の音
   車の走る音

良太(MO)
「青になって動き始める。そんな時、僕と君だけは、この数秒の時間に酔いしれていたんだ」

SE 車のブレーキの音
   歩き始める音

一輝「良太、おい、何してんだよ。授業遅れるぞ」

良太「……おお」

SE 信号の音
   雑踏の音

良太(MO)「数秒遅れて気づいたように歩き出したその女性は毎日同じ時間に見かける。独特の雰囲気をまとい、着飾らない清潔感のある女性だった。道を挟んで僕とは逆方向にいつも歩いていった」

良太「(呟くように)どこ行くんだろ……」

一輝「なんか言った? あー、今日のセミナーどうする? まだ2年なのに就活セミナーって早いよな。大学なんて人生の夏休みみたいなもんなのに。俺はもう少し青春してたいわー。やりたいことも大してないから何でもできる経済学部にしたのにさ」

SE (一輝の会話を断ち切るように)走り出す音

一輝「えっ良太?」

良太「わり、1限サボる。出席カード出しといて!」

一輝「お、おおう! どこ行くんだよ」

良太(MO)「夢中で走り出していた。わからない。ただ、あの人が気になって仕方なかった」

SE 走る音が徐々に止まる

良太「(息を切らして)どこ……」

良太(MO)「人通りの少ない静かな路地裏に。そこには『青の前』と、小さな看板が」

SE 歩く音
   ドアを開ける音

みき「あの、まだ準備中で……」
良太「あ……」

SE 写真を壁にかける
   足音が響く

良太(MO)「あの人だった」

良太「す、すみません」

みき「いえ……。もうすぐ終わるので!」

良太(MO)「あたりを見渡すと、透き通るような日常の写真がいっぱいだった。そこに一枚の大きな写真」

良太「これ……」

みき「あ、それ、今回のメインなんです。信号のあの一瞬が私にとって運命のような、」

良太「時が止まったような、時間ですよね」

みき「え」

良太「すみません」

みき「(静かに笑う)いえ、その通りです」

SE チャイムの音

  

一輝「お前、何してたんだよー。貸し1だからな」

良太「ああ……今度なんかおごるよ」

一輝「何にしよっかな〜。あ、朝の話だけどセミナーどうする? だるいし、みんなでないっていってるけど」

良太「……でよっかな」

一輝「どうした、良太。こういうのめんどくさいって、いつも言ってんじゃん」

良太「ああ。なんていうか……青になったら、すぐ走っていきたいんだよな」

一輝「は? どういう意味!?」

良太「何でもない」

一輝「は? 何だよ、教えろよ」

SE 雑踏の音

良太(MO)「気づいた。朝の数秒、あの人から目が離せなくて、きっと恋をしたんだと」

SE 雑踏の音が止まる

良太(MO)「だから思ったんだ。
次青になったら、すぐに走り出して、進んでいきたいんだって」

                   了


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