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あの会話をきっかけに


#あの会話をきっかけに

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以前、私は東京で、モロッコレストランを営んでいました。

それまでは、デザインの仕事しかしたことがなかったので、経営の仕方はおろか、接客業がどういうものか全く分かっていませんでした。

レストランって、あらかじめメニューを決め、お客様のオーダーに沿って作り、テーブルまで運んで終わり、そんなイメージ。

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だけど、志はそこそこ高く、パリのカフェみたいにいつ行っても、食事やコーヒーが飲めて、自分の部屋みたいにふらっと入れるような。

そして、無謀にも営業時間は12時から0時まで。開店当初はそれを一人でこなしていたので無茶そのものです。

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店の座席数は14。ランチ、ディナーはてんてこまい。しかしランチがおわって夕方まで(3時から6時)は大抵暇で、お客さんとマンツーマンの時もありました。

この手持ち無沙汰な状況を全く予期してしませんでした。何せ、

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•••••••••••気まずい。

初対面の人と狭い空間で二人っきり。

お客さんに気を遣わせないよう、ひたすら存在を消す作戦に出ましたが、空間が緊張します。

それでも同じお客さんが3回来てくれると、ああ、うちが好きなんだなと、若干安心して接客ができるようになり、有難いことにそういう方が少しずつ増えていきました。

ある日、知ってるお客さんが来店し、カウンター近くに座りました。すぐに、また知ってるお客さんが来て、今度は逆サイドに陣取ります。

店員である私との接点はそれぞれにありますが、お客さん同士は面識がありません。一瞬のアイコンタクトと会釈はしたのですが、どちらか一方に話しかけることもできず、結局、

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••••••••••無言。

店内の空気はますます固くなってきます。

さらに今度は初めてのお客さんが来店しました。店内の異様な静寂さに恐れをなしたのか、一番離れた席を選びました。


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狭い店内はまるで抽象画を展示してある美術館のよう。

誰もが居心地悪いはず、、、、、


『ママさんはモンゴル人ですか?』

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初めてのお客さんが耐えきれず声を発しました。

モンゴル?モンゴルってなんだ?と、緊張している頭はいつも以上に回りません。

2秒置いて、右端の男性が笑い出しました。

『モロッコだよね?モロッコ人かと尋ねたかったんだよね?』

すると左端の男性も釣られて笑いだし『モロッコなんて珍しいもんな。僕もよくわからなくてこの店来てるんだよ』と会話に加わってきました。

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あんなに緊張していた空間が嘘のように柔らかくなりました。少し話すだけでこうも違うとは。

会話はマジックですね。


それから私の接客方法は変わりました。はっきりと声を出していくことにしました。いらっしゃいませ!

よく来ていただいてる方にも、初めての方にも、『今日は暑いですね!』『素敵な傘をお持ちですね』と、必ず一言添えるようにしました。私が発した言葉に反応があった他のお客様がいたら、一緒に会話に入れるように促します。

2度と店内の空気が凍りつく事はありませんでした。

ありがとう!モンゴル人!

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時は流れて、私は2年前から私はサンフランシスコのミッション地区に住んでいます。現地の誰に聞いても治安が悪いところです。

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道に住んでる人ホームレスピープルが多く、ドラッグやられてる方ジャンキーも多数注射器落ちてます)最近では住んでるアパート内で殺傷事件もありました。

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特に駅の周りは常に道に住んでる人ホームレスピープルで混み合い、ゴミは散乱、私のような日本人は珍しく、時々揶揄うように声をかけられるので、彼らの前を通る時には 視線を合わさず常に早足です。

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そんな折、奥さんは日本人、旦那さんはアメリカンのご夫婦と近所で知り合いました。

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奥様は面倒見が良く、旦那さんはとても顔が広い方で、道を歩いていると、みんなが彼に挨拶をしてきます。それは、道に住んでる人ホームレスピープル達も同じで、彼には一目置いているようでした。

ある日私がいつものように駆け足で、駅に向かっていると

mami mamiと私を呼ぶ声が。

振り返ると通りの向こうから旦那さんが手を振っています。大声なので、周りの道に住んでる人ホームレスピープルも一斉にこちらを向きました。

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それからも旦那さんは私を見かけると呼び止め、『What are you doing? 』『where are you going?』声をかけてきます。

駅の真ん中で遭遇した時には、私に話しかけるだけでなく、なんと!そばにいた道に住んでる人ホームレスピープルに、私に対する挨拶を促したんです!

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誰か『・・・・・How are you?』

私『・・・I'm  fine , and you?』

あ。

教科書通りの挨拶をしている時に気がつきました。

旦那さんは私が彼の知り合いだと言うことを周りにアピールし、さらに彼らと会話させる事によって、お互いを認識させ、私にもしものことが起こらないようにしてくれたのだと。

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その後、彼らは私を揶揄う事はなくなり、代わりにHelloの声が聞こえます。

私は彼らの前を通るのが少し怖くなくなりました。

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会話は仲間意識を作り、そして身をも守ります。


私は一言交わすだけで見える風景が変わりました、店でも道でも。話す内容よりも、会話するという行為自体に意味があると知りました、同時に

幼い頃から、挨拶が大事と教えられてきた事も今更、腑に落ちましたねー。

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誰かと会話する(向き合う)は、何かが変わる(きっかけ)のドアなんじゃないかと私は思っています。

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おわり。
















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