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7インチ盤専門店雑記561「Fuse One」

スタンリー・クラークは大好きなベーシストです。時々無性に聴きたくなります。キャリア全般にわたって好きと言うと、「本当かよ?」と言われそうですが、ほぼほぼ捕捉しております。むしろ有名音源と言うべきReturn To Foreverはあまり聴いてないほうです。普段何か聴くかとなったときにまず手が伸びるのは、やはり「School Days」や「Modern Man」といった70年代のヒット・アルバムです。ロック好きからも愛される「Rock 'n' Roll Jelly」のような曲もありますからね…。

まあ正直申しますと、その時期の人気曲を集めたコンピレーション「I Wanna Play For You」の方に手が伸びてしまいますけどね。

アナログレコードではありませんが、88年の「If This Bass Could Only Talk」や93年の「East River Drive」あたりも大好きな盤です。そこまでベースという楽器がお好きかと呆れるレベルですが、やはり第一人者としての自負もおありでしょう。凄いです。2006年の「Standards」というアルバムでウッド・ベースを弾いたときに、自分は予想外にいいなと気に入っておりましたが、世間一般的にはあまり評価されなかったのはちょっとした驚きでした。どうしてもベーシストはジャズだとリーダー作もあるのに、ロックの世界ではバックアップ的な見られ方をするのでしょうか?デオダートやチック・コリアといった有名どころのバックアップでも確実にいい仕事をしていますけどね。両方の世界を行き来しても構わんでしょうに…。

さて、ヘッダー写真はスタンリー・クラークが中心になっていたCTIのプロジェクト、フューズ・ワンの同名ファーストです。クリード・テイラーのお力なのか、もの凄いメンツを集めておいて「好きなことをヤレ」という面白い企画でした。まあCTIの立て直しのための資金稼ぎの役割を担っていたようですが、ジャケットの裏面に ↓ こんなことが書いてあります。リーダー級の連中は好き勝手できないから、名うての連中が好き勝手できる場をつくった、ということなんでしょうかね。

FUSE ONE is conceived as a forum in which major contemporary musicians perform according to their own musical disciplines
and interact without the constraints that accompany leader responsibilities.
Each player brings in new compositions and ideas. C.T.

レコード・ジャケットより

まあ、さすがにそこまでかという気もしなくもないですが、スタンリー・クラーク、ラリー・コリエル、パウリーニョ・ダ・コスタ、ジョー・ファレル、ジョン・マクラフリン、ロニー・フォスター、レオン・ンドゥグ・チャンクラ―、レニー・ホワイト、トニー・ウィリアムスといった連中の名前がジャケットに並べてありますから、フュージョン好きは手を出しますよね。

そして何故、ここに名前が並んでないのかよく分からないのが、ジェレミー・ウォールです。人気絶頂だったはずのスパイロ・ジャイラのキーボードですが、Arranged and conducted by Jeremy Wallというクレジットだけです。…でもね、彼はここで地味~に面白い仕事をしているんですよね。

Fuse OneといえばA-1「Grand Prix」が有名なんでしょう。スタンリー・クラークもジョン・マクラフリンもテナー・サックスのジョー・ファレルもガチンコという感じで火花を散らすような演奏を聴かせております。CMか何かタイアップもあったかと思いますが、よく憶えておりません。…まあ、凄い演奏です。

その次、問題はその次の曲A-2「Waterside」です。これ、ジェレミー・ウォールがスメタナの「我が祖国」の「モルダウ」を改作したとクレジットされているのですが、これがですね、好きか、嫌いか…ですね。如何せん大名曲「ブルタバ=モルダウ」のメロディです。ですが、どっひゃーなアレンジを施されております。ラリー・コリエルのヤロー、何考えてんだか、エレキで弾き倒した後にオベイションでさらにブリブリ弾きまくります。…あ、コレ、ベースはウィル・リーですね。スタンリー・クラークじゃないや。…さすがに遠慮したかなというアレンジです。

この「Waterside」、単体で評していいのか悩ましいところもあります。如何せん前曲がバチバチの「Grand Prix」、次曲がスタンリー・クラーク作の美メロ曲「Sunshine Lady」です。この前後があっての「Waterside」、案外このアルバムの中で座りがいいんです。…そもそも、アルバム全体の印象は結構粗いなというものです。各人のソロの出だしとか唐突な印象の箇所が3~4か所、…5~6か所ありまして、ちょいと流して聴くのには向きません。それだけ演奏に集中することにもなりますから、私的には構わないのですが、名盤と扱われない理由はその辺にあるかもとも思わせます。

ちなみに、Fuse Oneとしては3枚のアルバムがリリースされたようですが、CTIからはセカンドまでだそうで、私的にもセカンドまでしか聴いておりません。セカンドの「Silk」は、ファーストへの反省が込められたか、印象はよりスムーズになり、楽曲も長尺ものが4曲、両面に2曲ずつ収録されておりまして、…松岡直也さんかいなというような曲もあって、何だか微笑ましいのですが、結局あまり売れなかったようです。…思い切り企画倒れのプロジェクトなのかなとも思うわけでして…。

実は名うてのミュージシャン連中がワガママ過ぎて、スタンリー・クラークがリーダー的にまとめきれなかったのかなという気もしないでもないプロジェクトなんですけどね。でもバチバチ演奏がお好きなフュージョン・ファンには隠れた名盤なのかも知れません。ただねぇ、私の好きな「モルダウ」はどこへ行ったの…という部分もありましてねぇ…。


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