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ICONIC / アイコニック

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アイコニックシリーズをまとめました。
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#連載小説

ICONIC / アイコニック ⑦

ICONIC / アイコニック ⑦

 1時間ほどの昼寝をした俺は軽い頭痛に襲われ、クローン用の頭痛薬を服用する羽目になった。才能の開発よりも頭痛を根絶する機能を開発してくれ、と思う。
 購入者の夫婦のうち、執事の車に乗って帰ってきたのは女性、俺の立場からするに母親のほうだった。執事いわく父親のほうは泊まり込みで働くことになったらしく、帰ってきていないそうだ。
 母親は執事の作った野菜スープを一杯飲むと、すぐに寝室に向かい眠ってしまっ

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ICONIC / アイコニック ⑧

ICONIC / アイコニック ⑧

 朝、眠たい目を擦りながら俺はシティラインに乗っていた。一駅一駅進む毎に乗客が増えていき、二駅もすれば満足に自分の空間を確保することさえままならなくなった。息が詰まりそうな電車に揺られながら、学校の最寄り駅に早く着くことを願う。このままこの群衆の中にいれば、窒息死するのも時間の問題だ。
 人混みをかき分けながら電車を降り、ホームの階段を下って改札口を出る。あとは二十分ほどかけて徒歩で学校へ向かうだ

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ICONIC / アイコニック ⑨

ICONIC / アイコニック ⑨

「ヘルドッグスの閃光だって⁉︎」
「しっ!声がデカい!」
 昼食を持ってきてくれた武村にさっきの騒動を話してやると、やはりこのTHTに飛びついた。
「いや、俺も何かのSNSで見かけたことあるくらいの知識しかないからさ。詳しく教えてくんない?」
「『閃光』…ヘルドッグス社が造った第十八作目のTHTだ。高度武装シリーズの一つ『KATANA』では三作目にあたって、その前の作品『乱舞』や『桜吹雪』に比べて

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ICONIC / アイコニック ⑩

ICONIC / アイコニック ⑩

 翌日、俺はいつも通り学校に行った。朝には武村とも昨日の話についてあまり触れず、THT関連の話を滔々と続けただけだった。
 一限はクローン科だった。
「それまで主流だったヒューマノイドがクローン人間に取って代わられたのは何故か。えぇ〜、佐々木」
「ヒューマノイドに搭載されていた学習プログラムの制御ができなくなったからです」
 その通り、と言いながら先生はホワイトボードに板書を始めた。ノートの紙にシ

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ICONIC / アイコニック ⑪

ICONIC / アイコニック ⑪

 二限目は数学Ⅰだった。始まるや否やすぐ眠りに落ちてしまったことは言わずもがなだろう。数学は眠いし、世界は広い。この世の理の一つだ。
 チャイムと同時に目を覚ました。顔をあげ周りを確認したが、パッと見た限りで半分以上が眠っていることが分かった。うつ伏せになっていたり、腕を伸ばして机に伸びていたりとすぐにわかる形になっているのも面白い。
 先生はすぐに教室から出て行った。前にも言ったが、クローン生徒

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ICONIC / アイコニック ⑫

ICONIC / アイコニック ⑫

 「…ついに来たな」
「あぁ、そうだな」
 俺と武村は今、午後七時の学校の校門前にいる。二人とも家と学校は遠いため、近くのファミレスで時間を潰して待っていたのである。
 まだバスケ部かバレー部かが活動しているのか、体育館は明かりがまだ点いており、シューズの出す甲高い音がここまで聞こえてきた。しかしボールが地面に叩きつけられる音が全くしないため、もしかするとバドミントン部か卓球部なのかもしれない。今

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ICONIC / アイコニック ⑬

ICONIC / アイコニック ⑬

 その後しばらくしても秋龍とレイジがなかなか店の奥から出てこなかったため、俺と武村は様子を見に行った。
 鉄製の重々しいドアを開けて中に入ると、薄暗い部屋の中央に診察台のようなものがあり、そこに秋龍は寝そべっていた。レイジはその隣で椅子に腰掛けながら、コンピュータディスプレイに映った情報を眺めている。
「あれ、どうしたんや?」
 秋龍がこちらに気付き、声をかけてきた。
「いや、なかなか出てこなかっ

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ICONIC / アイコニック ⑭

ICONIC / アイコニック ⑭

 朝学校に到着したのは8時20分。朝礼が始まるのは30分だから、当然これくらいの時間なら大体のクラスメイトはとっくに到着している。今日このクラスで十二支が決められるのなら、俺の名前は乗らないことだろう。
 武村は俺より先に登校しており、俺の席で呆けていた。
「おはようさん」
 天井を眺めている武村を横目に、俺は荷物を机の上に置いた。
「ん、おはよう」
 武村がこちらに視線を下ろした。
「秋龍は?昨

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ICONIC / アイコニック ⑮

ICONIC / アイコニック ⑮

 翌日の夜8時。一部の運動部以外はとっくに帰宅しており、校舎に点いている明かりも片手で数えられるほどになっていた。
「夜8時なんて、優しい時間に召集かけられたもんやな」
 秋龍は相変わらず飄々としている。
「なんにせよ怪我人が出ないことを祈るよ」
「まったくだ」
 俺と武村は秋龍に誘われるまま学校に残り、図書室を追い出されるまで仲良く仮眠をとっていた。追い出されてからの2時間は退屈極まりなく、最終

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