カナダで出会ったクセ男
私には、忘れられない人がいる。
異性として好きになったとかじゃない。逆に、ものすごく恨みがあるわけでもない。
ただただ、癖が強くて存在が忘れられない。
カナダの農家で一緒に共同生活をしていた、カイという男。
(共同生活の序章はこちら。)
カイは私と同い年で、ファームステイをしながら生活をしていた。
なぜ母国で農家を渡り歩く生活をしているのかは分からない。
何者なのかも、家族がどこにいるのかも、よく分からない。
聞いたら答えてくれるとは思うけど、なんとなく、聞いていいのかわからなかった。
それくらい不思議な雰囲気が漂う人だった。
カイは家の中でも、外に行く時も、いつでもずっと裸足だった。
(地獄ハイキング中もずっと裸足だった証拠写真はこちら。)
自然が好きで、動物が好き。
一緒に散歩すると、気づけば何かを手に持っていたりする。
農家での共同生活はジェシーとカイと3人で過ごす時間が長かったけど、
ジェシーが地元のカフェの手伝いに行ってる間はカイと2人になる時間が結構あった。
彼は口数がものすごく多いタイプではないけど、自然と話す時間は長くなった。
私の英語のアクセントが変だったら、からかったりもしてきた。
(ただその後いつもちゃんと修正してくれた。)
2人になった時はよく外に行こうと言われ、一緒に散歩もたくさんした。
ある時の散歩中、カイは何かを見つけたようなすごい顔をして、絶対道じゃない方にどんどん入り込んでいく。
なに?って聞いても答えず、見つけた何かに向かって道なき道をひたすら進んでいく。私の声が聞こえてるのか、無視されてるのかも分からない。きっと、それは、さぞかしすごいものを見つけたのだろう。
そして急に立ち止まったと思ったら、無心でラズベリーを摘み始めた。
あんたはリスか。
私より遥かに大きい男が、裸足で、私を無視しながらラズベリーを摘み続けている。
裸足男に、ラズベリー摘み男 というあだ名が新たに加わる。
やっと喋ったかと思ったら
「なんで立ってるの?摘んで?」
異国のど田舎で迷子になりたくないから仕方なくついて行ったらわけのわからん場所でラズベリー摘みに付き合わされ、変な虫にも刺されて、かゆくて、帰り道はイライラしてほとんど話さなかった。
こんな感じの掴みどころのなさがたくさんある人だった。
ただ、摘んだラズベリーで焼いたパイはとってもおいしかったよ。
こっちは変な虫に皮膚捧げてるねんからおいしくないと困るねんけどな。
またある日の散歩は、見渡す限りの原っぱと、海が見える場所。
ここはラズベリーもなく安全地帯。
気持ちのいい景色の中歩いていたら
「友達呼んでいい?」とカイが急に聞いてきた。
え、なにその居酒屋で始まる◯◯も呼んでいい?みたいなノリ。
ここ地元ちゃうやろ。
そもそもあんた携帯持ってへんやん。
誰をどないして呼ぶねん。
ツッコミどころが多すぎてしんどいから、一周まわって「いいよ」とだけ答えた。
指笛を吹き始めるカイ。嫌な予感しかしない。
風の音の中に、カイの指笛だけが響き続ける。
しばらく吹き続けて、「今日はいないみたい。」とのこと。
きっと、彼の頭の中のお友達を呼んでいたのだろう。今日は呼び起こせなかったんかな。
もう今さらこの男には何を言われても驚かないから、聞いてみた。
「友達ってだれ?」
「馬。」
もはやイマジナリーフレンドであってほしかった。
聞いてみると、リアルガチ馬らしい。
この前来た時は、呼んだらすぐ現れたらしい。
今日はいないみたいで本当によかった。
馬、突進してきたらさすがに対処法分からん。
裸足男、ラズベリー摘み男、馬呼び人。
彼はSNSはしてなかった。連絡先も分からない。
服2枚くらいしかないんちゃうかっていうくらい、同じような服ばっかり着てたカイ。
どんな岩場を何時間歩いても、足の裏が無傷なカイ。
私がカナダを出る日にみんなで空港まで見送りに来てくれた時だけ、靴を履いていたカイ。
今どこで何してるんやろ。探偵ナイトスクープの世界バージョンみたいなんないんかな。
今日も裸足で歩いてるんかな。
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