1冊でプロの思考も手順も習得、著者から作品へリアクションをもらえる機会まで:担当編集者に聞く『一気にビギナー卒業! 動画でわかるAfter Effects教室』制作エピソード
タイトルの文字が音楽に合わせて登場する。キャラクターが楽しそうに動く。ちょっとしたアニメーションが入るだけで、「この動画面白そう」とワクワクしますよね。こうした、映像に躍動感を与え、魅力的に見せるためのソフトが、Adobe After Effects(アフターエフェクツ。以下、After Effects)です。
サンゼ著『一気にビギナー卒業! 動画でわかるAfter Effects教室』(2021年10月発売)は、映像制作が初めての方でも、動画でまずAfter Effectsの操作のイメージをつかみ、書籍でより知識を深めて一気にビギナーを卒業できてしまうという嬉しい1冊。なぜこうした形での書籍が生まれたのか、制作のなかでこだわってきたことを、担当編集者F.Kに聞きました。
聞き手:技術評論社 デジタル事業部EC/マーケティング室
動画で動きや流れを理解、書籍で知識を深める「サンゼ式」を徹底
――書籍なのに「動画で学ぶ」ってインパクトありますね。
本書は、YouTubeに公開されている動画を見ながら実際に手を動かしてみて、ざっくりとした流れをつかんでから、書籍で知識を掘り下げてもらう構成になっています。これによって、映像制作ビギナーでも途中で迷子になることなく、体系的に学習を進めることができます。
――なるほど、操作の流れを動画で体感しつつ理解できる仕掛けになっているんですね。
実は、サンゼさんに執筆を依頼したときには、「動画と書籍で学ぶAfter Effects入門」くらいの漠然としたアイデアしか持っていませんでした。そして、その状態で臨んだ初回の打ち合わせで「わかりやすい動画がすでにあるのに、わざわざ書籍を別につくる意味ってなんだろう」という問題にぶつかりました。確かに、動画と同じ内容を文字起こしして書籍にするだけでは、もったいない気がしたんです。結局その日は、答えが出なかったと記憶しています。
それからしばらくたったある日、某人気アニメとその原作漫画を比べながら楽しんでいたサンゼさんが、次のようなことに気が付いたことが、本書の真の意味でのスタートとなりました。
「動画は『動き』や『流れ』を理解しやすくて、複雑な内容でもスムーズに理解できる。本は『自分のペース』で理解することができて、動画だけでは気がつかなかったことに気がつける」(サンゼさんの本書メイキング動画より)
つまり、動画での学びが効果的な分野と、書籍での学びが効果的な分野が、それぞれ存在する。ならば、その選別と振り分けを徹底的に行い、「書籍と動画をセットにしてはじめて完成するコンテンツ」をつくろう、という話になったのです。この考え方は、本書および関連動画のすべてに通底する基本思想になっています(私はこれを勝手に「サンゼ式」と呼んでいます)。
――著者のサンゼさんについて教えていただけますか。
サンゼさんこと和田光司さんは、映像編集とモーショングラフィックス制作を専門とする株式会社リヒトグラフの代表です。ご本人はテレビCMの編集を多く手がけられている映像編集のプロ中のプロです。2021年には、優れた広告などのクリエイティブに送られるACC TOKYO CREATIVITY AWARDSのクラフト賞をエディターとして受賞されています。
一方で、YouTubeではAfter EffectsやPremiere Proの解説動画などを300本以上公開されたり、映像クリエイターの助け合いの場として「映像サークル ECHO」を主催されたりと、映像制作のノウハウを広く伝えるため精力的に活動されている方です。
本書に連動した動画も、サンゼさんのYouTubeチャンネルで人気があったチュートリアル(操作解説)動画がベースになっています。書籍の内容とリンクさせて、さらにわかりやすくするために、一から再収録、再編集していただきました。
※書籍連動の動画は以下から視聴できます。
After Effectsで“思ったとおりに思ったものが作れるように”
――映像制作のノウハウを広く伝える活動の一環が今回の書籍なのですね。一気にビギナー卒業、ということですから、やはり映像制作の初心者、そしてプロから教わるということでプロを目指す方に読んでいただきたい1冊なのでしょうか?
そうですね。After Effectsを一から始めて、将来的には映像制作を仕事にしたい方にもおすすめできるものになっているかと思います。
After Effectsに挑戦する人は、同じAdobeの動画編集ソフトであるPremiere Proをある程度触ることができる人が多いです。実際、動画の制作では、After Effectsだけで完結するのではなく、Premiere Proと合わせて使うことが多々あります。本書でもこの2ソフトを適切に使い分けることを推奨しています。そういった意味では、実質的には映像制作ビギナーの「2冊目」の本としてもおすすめできます。
ただ、Premiere Proをまったく使ったことがない方でも操作できるよう、Premiere Proの操作方法も紹介しています。映像制作ビギナーの「1冊目」としても安心して活用していただけると思います。
また、映像制作のプロを目指していない方にもぜひ活用いただきたい本になっています。サンゼさんにお話を伺ったところによると、例えばイラストレーターさんにとってもAfter Effectsは有用なソフトだそう。イラストをちょっと動かして見せられると、そのイラストを使ったアニメーションの完成イメージをクライアントに共有できるので、仕事の幅が広がるそうです。他にも、会社の広報映像の作成や、趣味の動画制作などでも、アニメーションをつけると一気にプロっぽくなるので、いろいろな方が活用できるソフトだと思います。
――今は直接的に映像を仕事にしていない方でも仕事の幅が広がるというのは、いろいろな分野のクリエイターにとってヒントになりそうですね。ちなみに「ビギナー卒業」ということですが、具体的にはこの本を読むとどういう状態になれるのでしょう?
サンゼさんの考えでは、「After Effectsで思った通りに思ったものがつくれる状態」をビギナー卒業と定義しているそうです。つまり、「書籍に書かれているお手本どおりにつくれるようになること」自体にあまり意味はなく、本書を読み終えた「その先」を考えようというのが、サンゼさんの大事にしている価値なのではないかと理解しています。
そこで書籍では、ただ操作を覚えるだけではなく「なぜこうするのか」といった次元まで掘り下げて解説していただきました。また、作例通りにつくっておしまいにするのではなく、自分の頭で考えてアレンジをするためのヒントを各章の最後で紹介しています。
このように「なぜ」を知り、応用問題に取り組んでいただくことで、一歩進んだ応用力が身につきます。
さらに今回の説明の中には、「修正を踏まえたデータの作り方」といったような、現場で生きるプロの考え方なども織り込まれています。サンゼさんによると、映像制作の現場では修正がつきものだそうで、その修正までも見越したデータ作成のテクニックが必須になってくるということでした。
このような知識は、本を読み終わった後に、取り上げている作例以外の映像を作る上で力を発揮するはずです。
作品を映像制作に携わる仲間に見てもらえることもモチベーションに
――とはいえちょっと意地悪な質問をさせていただくと、1冊読んで何か映像を作ったとしても、お仕事に絡んでいないと作品を見てもらえず、なかなか継続のモチベーションがわかないように思いますが…。
そうですよね。サンゼさん自身も、駆け出しのころ、発表の機会と場がないことに悩んでいた時期があったそうです。そういった実体験を反映して、映像制作にチャレンジする皆さんの気持ちにまで寄り添っているのも本書の大きな特徴です。
まず、本書を読んで制作・アレンジした映像作品については、SNS上で発表の場を用意しています。Twitterで「#サンゼAE」のハッシュタグをつけて映像作品をツイートすれば、著者のサンゼさんや他の読者さんが「いいね」などの反応をしてくれます。発売から1年半以上たった今でも同じです。
また、サンゼさん主催の映像サークル ECHOのイベント、ECHO映像大会に応募することも可能です。例年だと、冬に開催される大会はECHOのメンバー以外の方も自由に参加することができ、映像制作をはじめて半年以内のビギナーを称える部門として「ビギナー部門」が設定されます。実際に、本書をきっかけとしてECHO映像大会に参加された方もいると伺っています。
このような「誰かに見てもらう」という経験は、映像制作を続けていく大きなモチベーションにつながりそうですね。
――動画で学べて、書籍で深めて、継続のために発表する、という一連の流れが作られているのですね。映像制作のノウハウを広く伝えたいというサンゼさんの熱意を強く感じます。
本書は、100%著者であるサンゼさんの熱意でできた本です。正直なところ、私がした仕事は、その熱意を書籍にするきっかけ作りだけですね……。
インターネット検索で手軽にノウハウが手に入る時代だからこそ、そこから一歩進んだプロの思考法やノウハウを体系的に学べる本書のような1冊で、映像制作を楽しみながら学んでいただけると嬉しいです。
サンゼさんは本書の制作秘話を、こちらの動画で公開してくださっています。ぜひこの記事を読まれた方にも、本書にかけるサンゼさんの熱意に触れていただき、本を手にとっていただけると嬉しいです。
――この本が、動画を作ってみたいという方々の手に少しでも多く届くことを願っています! どうもありがとうございました。
※著者サンゼさんへのインタビュー記事はこちら
※Premiere Pro、After Effects関連書籍記事はこちら
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