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幻滅 外国人社会学者が見た戦後日本70年

どうも、犬井です。

今回紹介する本は、ロナルド・ドーアの『幻滅 〔外国人社会学者が見た戦後日本70年〕』(2014)です。本書は、日本社会のインテリ層のムードがいかに変遷を遂げたかを描出するとともに、外国人社会学者ドーアの日本への感情の移り変わりが述懐されています。

かつて「親日家」であったドーアが、日本に『幻滅』するようになった理由を、以下で簡単にまとめていこうと思います。

新自由主義の浸透

チャーマンズ・ジョンソンの『通産省と日本の奇跡』(1982)は、外国人日本研究の本で、よく読まれているものの一つである。彼は、「日本型」経済が多くの点で英米で常識ある効率性、合理性の原則に反するにも関わらず、日本の方が成長率が高いことはなぜだろうと、言う。

答えは、戦前、戦中、戦後に、かなり優秀な、そして公共精神に満ちた官僚がいて、ほどほどの企業間競争を保証しながら、同時に経済全体の成長・海外競争力に貢献できるなら、企業間協力をも奨励するような「規則制度」を加えることができたからであると。彼らの「見える手」は、政策選択について、半分は派閥的で、半分は知的であるという食い違いは時々あっても、比較的優位な産業にしか専念できなくなる「市場原理まかせ」よりも、はるかにマシであったと。

しかし、当時は、英国ではサッチャーが、米国ではレーガンが新自由主義革命を始めて、すでに2年が経っていた。また日本でも、米国のビジネススクールや大学の経済大学院で博士号やMBAなどを取ってきた、新古典派経済学に「洗脳」された世代の役人が課長・局長に昇進する時期だった。

そのため、「日本型」経済を好意的に捉える考え方が通産省でますます強くなり、「ジョンソンの本は黙殺が賢明」という一派が強くなった

中曽根内閣の登場

日本において自由市場への移行が急に加速したのは、大平内閣が消費税導入に失敗した1980年から、中曽根内閣が形成された1982年の間である。この時、中曽根康弘と土光敏夫を中心に、政府の主要な課題が、国庫収入増幅ではなく、国庫支出削減にあるという雰囲気への転換を成し遂げた。中曽根は第二次臨時行政調査会(=第二臨調)を設立し、その会長として土光を任命した。そして、臨調の答申の多くが実行に移された。

また、この転換期と並行して、アメリカとの付き合い方も大きく変わった。その象徴として、日米安保条約体制が「日米同盟」と呼ばれるようになったことである。つまり、なるべくただ乗りで米国に守ってもらうのではなくて、税国と価値をともにする国として、米国と団結して自由世界の帝であるロシアや中国に対して、断固として対抗するという変化である。

しかし、その同盟は主権国間の平等な関係ではなく、米国は日本に基地を置き、日本は米国に基地がないといった、非対称性は引き続き残存していた。

幻滅の始まり

1980年代前半の、中曽根氏の「小政府・大軍備主義」や、対中対立における日本の決定的な米国加担や、民営化の動きには、
1. 競技主義的な新自由主義の表明
2. 増税せずに、予算の赤字を一時的に埋める方法
3. 国有の五現業の労組を潰す
という動機が裏にあった。つまり、国民へのサービスの効率化よりも、以上の目的を優先的に目標としていた。

もう一つは、日本の政界・財界などの代表が、昔の低姿勢を打ち捨て、ジャパン・アズ・ナンバーワンという自信爛漫の態度を見せる人が多くなったことであった。つまり、日本の工芸・芸術を誇るのでもなく、かなり平等な社会連帯意識の高さを誇るのでもなく、ただ富と権力の日本を誇りにする傾向が見えてきたのだ。

こうした、陽気な「おごる日本人」の現象は、バブル崩壊によって大きな反動を見せた。バブル崩壊で自信をなくした日本では、お互いに競い合い、批判し合う、より陰気なムードへとたちまち変わってしまった。メディアのトーンも「日本はダメだ」という自虐的な意見表明が多くなって、「日本型」経済から自由市場経済への転換を後押しすることになった。

幻滅

バブル崩壊後に誕生した、橋本内閣や小泉内閣以降、「構造改革」は急速な広がりを見せた。以下で簡単にリスト・アップしてみる。

1. 小泉・竹中の構造改革と郵政民営化
2. コーポレート・ガバナンスのアメリカ化、官僚・学者主導の会社法改正
3. 官僚バッシングと、安倍内閣の官僚人事の政治家法案
4. 民主党政権の二番煎じ
5. 生半可なインフレを起こしを軸とするアベノミクス
6. 中国を仮想敵とする日米同盟の深化
7. 対中包囲網のため、「北方領土問題」を実質的な断念

私はかねてより、日本が進んでいる方向について疑問を抱き、かつての「日本型」経済に立ち返るよう、提言をしてきた。しかし、それらは受け入れられるどころか、今となっては、もはや提言をもとに議論を発展させようとする姿勢すら見られなくなった。日本は、論争の趣味がない、知的な砂漠になってしまった

あとがき

ドーアは序文にて、自身の対日観を変えた主な理由の一つとして、次のことを述べています。

 米国のビジネス・スクールや経済学大学院で教育された日本の「洗脳世代」が、官庁や企業や政党で少しずつ昇級して、影響力を増して、新自由主義的アメリカのモデルに沿うべく、「構造改革」というインチキなスローガンの下で、日本を作りかえようとしたことが大きな原因だと思う。

このドーアの言葉の中に、日本没落の原因が簡潔に示されています。

この言葉から6年ほど経ち、今となっては、新自由主義的を批判しないほうが珍しいくらいですが、かといって、日本ではパラダイムの転換がまだ起きていません。他国では、ジョンソンやメルケル、習近平やプーチン、またトランプですら、新自由主義からの脱却の道を国民に提示しています。主要国の中で、その立場を明確にしてないのは日本くらいでしょうか。

新自由主義の下で最も被害を受けるのは、労働者などの弱い立場の人や、特にこれからを生きる私たち若年層の世代ですから、このパラダイムシフトは必須であるように思われます。

そして、この転換のためには、新自由主義に立ち向かうための理論という武器が必要になってくると私は考えています。例えば、その理論の一つとして、MMT(=現代貨幣理論)は有効でしょう。あるいは、先人たち(例えば、フリードリヒ・リストやカール・ポランニーなど)が著した古典からでも、インスピレーションを得ることは可能でしょう。

ドーアの__ある意味ではドーアの敗北とも言える__日本への『幻滅』から、以上のことが再度考えさせられました。

では。

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