移民クライシス
どうも、犬井です。
今回紹介する本は出井康博氏の「移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線」(2019)です。ここ5年で、外国人労働者は2倍以上に増加し、年間の移民受け入れ数でみると、日本は世界第4位の移民大国へと変容しました。また、2018年12月に「入管法」が改正され、さらなる移民受け入れへと舵をきりました。本書では、そうした外国人労働者の中でも「留学生」に注視して、彼らの生活の実態を書き表しています。以下、簡単に内容を書き綴っていきたいと思います。
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留学生30万人計画の背景にあるもの
安倍政権が誕生した2012年末からの6年半で、外国人留学生が14万人以上も増えた。この急増した留学生の大半は出稼ぎを目的に、貧しいアジアの新興国から来日している。留学生には「週28時間以内」のアルバイトが認められている。彼らはそこに目をつけ、「留学」を出稼ぎに利用している。
この背景にあるのは、安倍政権が「日本再興戦略」(成長戦略)に掲げる「留学生30万人計画」である。この計画を実現しようと政府は留学ビザの発給基準を大幅に緩め、アジアの貧しい国から、出稼ぎを目的にした「偽装留学生」の流入が増加した。
偽装留学生がいかにして日本にやってくるか
近年、ベトナムでは日本へ留学する若者が急増している。彼らは斡旋仲買人(=ブローカー)を通してやってくる。しかし、ブローカーの宣伝には詐欺まがいのものもある。例を挙げると、彼らは「月20~30万円が簡単に稼げる」という宣伝文句をよく使っていた。しかし、「月20~30万円」は簡単には稼げない。そもそも「週28時間以内」という制限があるので、時給1000円だとしても月11万円少々にしかならない。そのため彼らは、法定上限を破って働くことになる。
最近は、上のような宣伝文句に騙される留学生は減ってきたが、今なお変わらないものがある。それは大半の留学生が、留学に必要となる費用を借金に頼っていることだ。内訳は日本語学校の初年度の学費、寮費6ヶ月分の前払い、渡航費、ブローカーに支払う手数料などである。
しかし、留学費用を借金に頼る外国人は、本来は留学ビザの発給対象にならない。そこで彼らに留学を斡旋するブローカーが、でっち上げの年収や預金残高の記載された証明書を準備する。ベトナムのような新興国では、行政機関や銀行であろうと、賄賂さえ払えば、でっち上げの数字が並ぶ「本物」の証明証が簡単に手に入る。そうして準備された書類を日本側が受け入れを認めている。
また、ブローカーは留学生の斡旋先の日本語学校から、留学生一人当たり10万円ほどのキックバックを受け取る。さらに、留学希望者から手数料を徴収し、1人の斡旋で数十万の収入を得ている。
こうしたブローカーへの手数料もあって、留学生の借金は膨らみ、結果として偽装留学生たちは150万円前後の借金を背負って来日し、入国後はアルバイト漬けの生活を強いられる。
日本語学校の闇
留学生の増加に伴い、日本語学校に在籍する留学生は2018年5月の時点で9万79人に上り、12年の2万4092人から約3.7倍に急増した。2007年には全国で308校だった日本語学校の数も、18年8月までに711校と2倍以上となった。最近では、人材派遣業者などが日本語学校を設立するケースも目立つ。学校で偽装留学生を受け入れ、人手不足の企業にアルバイトとして斡旋しようと目論んでいる。
前述の理由から、借金を返すために学費を払いつつ、安い賃金で働く環境に対して限界に達した留学生が日本語学校から失踪し、不法就労に走る留学生が増加している。日本語学校は留学生が失踪し、不法残留することを恐れる。というのは、不法残留の輩出率が全体の5%を超えると、入学者へのビザ審査が厳しくなり、定員が増やせないからである。そこで失踪の可能性が疑われたり、すでに行方不明になった留学生を「除籍」とする。「除籍」であれば責任が問われないからである。
また、日本語学校は、留学生を「強制送還」する権利を持っている。留学生は借金を抱えたまま帰国する「強制送還」を最も恐れる。しかし、学校に問題があっても、転校すら認められない。つまり、留学生は一度入学した学校側に生殺与奪の権利を握られてしまうのだ。
また、留学生のおこぼれに私立大学や専門学校も与っている。少子化の影響で定員割れに悩む大学や専門学校は、営利目的で偽装留学生で生き残りを図っている。
以上のように、送り出し国のブローカーから日本語学校を経て、専門学校や大学へも広がっている偽装留学生ビジネスにより、経営者たちはあの手この手で暴利を貪っているのだ。
留学生の就職条件緩和
留学生に対する就職条件の緩和は、安倍政権の肝いりで実現した政策である。同政権は2016年に発表した「日本再興戦略」で、<優秀な外国人材>である留学生の就職率を「5割」への引き上げる目標を打ち上げている。その実現のために、職種の制限を取り除いた就労ビザの発給がなされている。
大卒の場合、就職条件は「年収300万円以上」と「日本語を使う仕事」のみである。これは、留学生の就職先として認められていなかった単純労働でも、就労ビザが可能になったことを意味している。
留学生の就職緩和政策とは、<優秀な外国人材>確保が目的だとアピールしつつ、外国人の単純労働者を確保するための新たな手段なのである。
移民クライシス
留学生を斡旋するブローカー、バブルを謳歌する日本語学校、そのおこぼれに与かる専門学校や大学、留学生の違法就労をわかって雇い入れる企業、何より「留学」をエサに新興国の若者を日本へと誘い込んでいる政府──。皆、醜悪である。
だが、その醜悪さもまた、他者を思いやる余裕をなくしてしまった、落ちてゆく日本と日本人の姿そのものかもしれない。
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あとがき
昨年、ヨーロッパの移民の問題について取り上げた、ダグラス・マレーの「西洋の自死」が話題になりました。近年のポピュリズム運動の背景には、移民の増加による様々な問題があり、同書でも、犯罪率の上昇、地域社会の消滅・変容、人権派との国内での分断、フリーライダー、賃金抑制、不法移民など様々な事柄について言及しています。
残念ながら、日本は西洋の教訓から学ぶことなく、さらなる移民受け入れに邁進しています。人材不足の解消を理由としていますが、その理由も疑わしいです。
確かに、失業率は下がり、少子高齢化で、人材不足が深刻であると思うのが普通なのかもしれません。しかし、高卒以下の人たちは大卒の人たちに比べ失業率が高く、また、職がある人でも非正規雇用であることが多く、労働力を最大限活用できているとは思えません。加えて、日本の少子化の問題は、日本人の所得上昇を抑制する政策、一極集中を進めるような政策などの政治的作為によってもたらされています。
詰まる所、移民受け入れの背景にあるのは、安い賃金で長時間働いてくれる人材不足と、政治の責任放棄であると思います。
西洋の自死から学ぶことなく、移民受け入れによって安易に人材を求めた日本が行き着く結末が、西洋が行き至ったものと異なるものになるとは、私には考えられません。
では。
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