父親、息子の手綱を引き締める(2)
父親の懸念
夫も、長男が教室以外の場所で過ごすこと、授業中に読書をしていること、個別課題をもらっていること、その他色々と他の生徒さんと違う時間の過ごし方をしていることについては知っているし、現時点において、それは許容する必要もあるというスタンスだ。
だからそれ自体が問題というより、放って置いたらその度が過ぎてしまったことを懸念したようだ。その上で夫が最も危惧したのは、このまま自然体で突き進んだら、大人になった時にアルバイトはするかもしれないが、あとはずっと部屋にこもって好きな本ばかり読んで過ごすのではないかという事。
私はそこまで懸念したことがなかったのと、まだ結論づけるには早いのではないかと思ったが、ただ夫婦ともに、長男が何かとやる意味が分からないとか、そんな様な事を言っているうちに、気付いたら人生が終わってしまっていたということにだけはならないでほしいと、その点では意見が一致したのだった。
夫は、分岐点は直ぐそこまで来ていると言い、中学以降の過ごし方でほぼ決まるだろうと言った。
しっかり者の生徒さんが皆んなでやるよ!と盛り上げてイベントをやるような学校だと、長男はスーっと引いてしまうし、きちんとやって行こうという学校だと先生達の長男への指導も厳しくなって、長男はそれこそ一人で籠るかもしれない。
長男はかつて、塾の先生から管理の厳しい学校に行くべきと言われたことがあった。それに対し、我が家はむしろ真逆の学校を考えていた。夫もこの時真剣に、長男の特性を考えて学校選びをしたいこと、合否に関わらず受けたい学校があることを塾に改めて伝えたのだった。中学校の校風を我が家は重視している。
私は、仮に中高が順調でも、社会人になった途端にやっぱり厳しかったということはあり得るだろうと思っている。でもだからこそ、夫は、中学以降、長男に合った校風の学校に入れれば、チームワークで色々と行動するようになり、その経験が社会人になった時に活きてくるし、そういった学校で長男にも変わることを期待していると言った。
社会人になってからの話は、今、発達特性を持った人を雇用の場で活かしきれていないために経済損失が数兆円と言われていたり、理解を進めるために活動されている方もいて、社会も多少は変わるかもしれない。私としても、人の理解の有無が極めて重要というのは実感しているため、せめて今よりは受容される社会になっていてくれたらとは思う。
しかし、夫はもっと現実的で、数兆円の経済損失と言われても、ではうちに是非来て働いてくださいと言ってくれる場がどれだけあるだろうかと言う。一緒に働いたらよほどのメリットがある、あるいは飛び抜けた才能があればうまく行くかもしれないけれど、そのような人というのは極めて少ないのが現実で、むしろ一緒に働くことの負担が大きければ、数兆円の損失と言われてもお断りされる可能性が高いと。
また特性の理解を進めるというのも、それを主張し過ぎた先に、理解しない社会が悪い、自分たちは被害者だとなってしまう恐れがあって、そのまま暴走するケースが出てくれば、その影響からギフテッドをはじめ特性がある人達が今よりももっと生きづらい社会になる懸念がある。
以前フェミニストの事例に絡めてnoteに書いたことがあるが、当事者の出方が極めて重要になると家庭内で話し合ったことがある。
いっそのことギフテッドなら海外にという発想もあるかもしれない。しかし夫は、結局どこに行ってもチームワークは必須であり、それなしには厳しいと言った。
長男は少し前、「おかぁ、俺、皆んなといるのも好きだけど、一人でいるのも結構好きだよ。」と言っていて、これならバランスも良いし大丈夫そうだなと、私はあまり心配をしていなかった。
長男は他人軸よりは自分軸で生きていると思う。そして本人の中では安定している。しかしだからこそ、長男は人から事ある毎に色々言われる。でも本人は人に同じ事はしないのだ。「そういうもの、変わらないものと思って俺は受け入れたよ。だから俺のことも変わらないと思ってくれたら良いんだけど」と言ったこともある。
だから人に迷惑になっていない限り本人は問題と考えず我が道を行く。まさか今回調整を要請されるとも思っていなかっただろう。
(3)につづく