「あるキノコ一族の話」

とある山奥に、仲のよいキノコの家族がいました。
毎年、キノコ狩りの季節には、家族揃って悩ましい問題に頭を抱えてました。
狐や狸ならば、害はないのですが、キノコ家族は、自分たちの意志に反して「毒」を持っていたからです。
正確には大昔、人間の体にも、このキノコ一族は安心して食べられる存在でした。しかし近年、謎のアレルギー症状を起こす人間が増えてきてしまい、キノコ一族は、身を潜めるように、すぐ見つからない場所で生息するのですが、宝探しのごとく、岩陰、木の根の陰、苔の間のキノコ一族を見つけては、人間は歓喜の声と共に採っていってしまうのです。そしてキノコ一族には不思議なテレパシーがあるがために、食べた者が毒に当たると一族みな、同じ痛みを感じて、毒に当たった事実を悟るのです。

そんな中、物好きな人間が、廃虚となった山小屋に住むようになりました。
毎日不思議な音楽が小屋から聞こえてきます。
どうも、太鼓とギターで音楽をつくる音楽家だったようです。
キノコ一族の、今年の末娘は、胞子が根付くや否や、この音楽家の音楽を子守唄として成長しました。
末娘はいつしか、その音色から、音楽家の口笛まで覚えてしまいました。その音楽を聴くと体がムズムズする感触を知りました。
そして30日。立派な成長したキノコになりました。

音楽家は、小屋の周りの野草を摘んでは食べたりしていました。いつもならば、ほんの庭先の草を摘むだけなのですが、ある時、身の丈ほどの草むらにも入り、切り株の陰の末娘を見つけると、嬉しそうに摘んで家の中に入ってしまいました。
残されたキノコ一族は、緊張の面持ちで、音楽家が毒にあたり、自分たちの体もチクんと痛くなる瞬間をドキドキしながら待ちました。
すると信じられない現象が起こりました。
キノコ一族は、一斉にドレミのメロディのオナラを発したのです。
そのオナラメロディは森の中を、平和の鐘の如くかけ巡りました。

キノコ一族が再び、人間と歩み寄ることのきっかけを知った1日でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?