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再び地獄に帰った話

調子が悪くて寝込んでいる。


12月に入ってから、1日にやることが増えた。
散歩、日記の記入、noteの投稿、ご飯、風呂…。
暇な時間も、SNSを眺めて過ごす。うつ病になって2年と9ヶ月、こんなに意欲的に過ごした日々は初めてだった。

以前の私は、「何もできない」でいっぱいだった。
たとえ夕ご飯の買い出しに行けても、散歩に行けても、病院に行けても、家事を手伝っても、
それらは全て当たり前にできて当然のことだから、私の毎日は「何もできない」でいっぱいだった。
それ以上のこと、例えば映画を見に行ったり、ちょっとカフェで一服したり。そういうことがなければ、私の日常は意味のないものとなるのだ。


しかし、意味のある1日にすることも簡単にできることではない。まず、働けないのでお金が無い。エンタメを消費する気力もない。外出して目的のことをする以外の体力が無い。
こうして、「何もできない」の毎日が出来上がっていく。自己嫌悪もシンシンと募っていく。


変化があったのは、12月に入ってからだ。
とあるゲームに「散歩」の機能が付いた。
まず、今自分のいる場所にピンを立て、次に移動した先にもう一つピンを立てる。
その二つのピンを直線距離で結んで、移動した距離の分だけポイントが貯まる。ポイントが貯まると、報酬がもらえる。
これが私には効果的だった。散歩のモチベーションがグッと上がったのだ。

そして、noteへの投稿。
これも良かった。尊敬する先輩からの勧めで始め、うつ病になった日からの日記を何日ぶんかずつ投稿していくことにした。
それによって、書くのをやめていた紙の日記もつけようと思い始めた。
この2つを同時にやると1時間半から2時間くらい時間を潰せる。

こうして私の毎日に、「何かをやった」実績が積まれていった。

変化があったのは、心も同じだ。
死にたい、死ななければならないと思う2年と9ヶ月だったが
以前より充実した毎日に、「このままこんなふうに、なんとなく1日1日を過ごしていけば良いのではないか」「死ななくてもそうやって生きていけば良いのではないか」という気持ちが生まれた。

これは大変な変化だった。
うつ病になって初めて、生きていて良いと思えたのだ。

この「生きていて良い」という自己肯定は、私の心の一番やわらかいところの周りに、保護膜のようなものを作った。
その保護膜は、ふと「死にたい」と希死念慮が襲ったときに、「死ななくてもいいんじゃない?」といったふうに、優しい反撃をしてくれるのだ。
針のように鋭い自分の中の死にたいという声が心の一番やわらかいところに届く前に、その弾力性をもって、やんわりと押し返してくれるのだ。

私は大いに安心した。私の病気は治ってきたのだ!悩まされ続けた死にたい気持ちへの対抗手段を、私はついに身につけたのだ!


そんな、私の心を守ってくれる、柔らかくて弾力のある優しい保護膜を、
私は昨日、ビリビリに破いて捨てた。


きっかけは、ある人のツイートだった。
幼少期から大人に消費され続け、他人に翻弄され、自分を犠牲にし、それを良しとして生きてきて、ついに限界がきた人の声。
その人はもう、自殺することを決めてしまったようだ。
普通の人ならここで無責任な正義感を持ち出して自殺を止めるのだろうが、私にはできなかった。なぜならその人の「死にたい」が、本人も納得した上でのこの世との訣別のように思えたからだ。子は自分がいなくても生きていけるように育てた。もうひとり面倒をみていた親戚の子がいたが、その子ももう大丈夫だろう。そのようなことが書いてあったからだ。
無敵の人になってしまったのだ。もう失うものは自分の命一つのみ。その命も惜しくない。だから死ぬ。

そんなツイートを見て、私は自分の人生を思い返し、そのあまりの違いに慄いた。

なぜ、こんなに酷い扱いを受けた人が幸せを享受できず自殺を選び
こんなに甘やかされて育った私はのうのうと生きているのか。
私の方が死ぬべきではないのか?

その考えは私の中の「死ね」という声を強くしていった。
自分に向かって、死ね!死ね!死ね!と怒鳴り続けた。そしてその度にその声を跳ね返してくる、私の心を守るものが煩わしくなった。

もっと自分を傷つけなければならない。理由なんてない。私はそうされるべき人間だから。

私は心の一番やわらかいところを守る保護膜を渾身の力で破いて、その中に向かって大声で叫んだ。
「お前は何もできないゴミだ!」
「お前なんか死ね!」
「ゴミ!ゴミ!ゴミ!ゴミ!ゴミ!ゴミ!」


その声は今も私を傷つけている。それで良いのだ。私は恵まれているのだから、私の方こそ死んでしまえば良いのだ。私なんて。
私は地獄をゆくべきなのだ。
たとえ苦しくても、夜中に死にたいと泣き叫んでも、私は私を許してはいけないのだ。

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