ドライブ アイランド【第三章 謎の失踪】
夕方、島を一周した後、二人は宿に到着した。島を一周したあと、まだチェックインまで時間があったので、もう一周ドライブすることにした。
他に行く場所は、神社と頂上付近の、空海展望台が観光マップに掲載されていたが、話に夢中で、それどころではなかった。
「電話の相手は、男のひと?」
サトルは聞いた。
「うん、どこかで聞いたことのあるような声なんだけど、誰かは思い出せないの,,,」
島を一周するのに時間はそうはかからないが、空間の把握ができず、時空のトンネルの中にいるように、過去と現在、そして未来へ続く道に思えるよう意識した。海は、相変わらずキラキラと輝き、反射していた。
やがて、宿のチェックインの時間になったので、宿に向かう。
宿は古びた木造の建物で、外見だけでなく内部も年季が入っていた。サチは気にせず笑顔で荷物を降ろし、サトルに促すようにフロントへと進んだ。
「ここ、ちょっと薄気味悪くないか?」
サトルは小声で言った。
「大丈夫よ。田舎の宿なんてこんなものよ。」
サチは軽く流すように返したが、その言葉にはどこか浮ついた感じがあった。
部屋に荷物を置き、しばらく休憩していた二人だったが、浴衣があったので、着替えて、せっかくだから、温泉に入ろうと言って、露天風呂のある大浴場の入り口の前で別れ際立ち話をした「あとで、部屋に帰ってビールでも飲もう。」
そういって、男女それぞれのお風呂に入った。
「風呂上がりのビールが楽しみだね。たぶん私の方が長風呂だから先に部屋に帰って待ってて。あと湯冷ましで散歩して帰るね」
サチは、笑顔で、そういって女風呂に、入っていった。
サトルは風呂から出て、売店で缶ビールを購入して、先に部屋に帰ってサチを待つことにした。
しかし、一時間経っても彼女は、帰って来なかった。
「そのうち帰って来るさ,,,」
畳の部屋で横になった。サトルは、缶ビールをもう一本空かして待ったが、時間だけが過ぎ、不安を強めていた。
あのカフェのマスターの言葉や、島の静寂、そしてサチの妙に明るく振る舞う態度が気になって仕方がなかった。
その後、1時間、2時間と経過してもサチは戻ってこなかった。さすがに気になり始めたサトルは、彼女の携帯に電話をかけた。しかし、何度かけてもコール音はするが応答はない。
「何かあったのか?」
彼は不安を抱えながら部屋を飛び出し、宿の外へと向かった。夕日はすでに沈みかけており、辺りは薄暗くなっていた。
サチがどこに行ったのか、全く手がかりがない。彼女が向かうと言っていた場所はただの散歩道のはずだった。サトルは焦りながら、宿の周辺を探し回ったが、彼女の姿はどこにもなかった。
フロントに若い浴衣の、女性が外出しなかったか、たずねると、
「ひとり、浴衣の若い女性が近くに交番がないかと、訪ねられたので、道順をおしらせしました。」
「交番?何か困ったことが起こったのか,,,」
夜が更ける中、サトルは警察に連絡を試みたが、島の小さな交番では取り合ってくれなかった。
「若い浴衣の女性?いや来てないよ。ただの散歩に出掛けたんじゃないかな、ふらっと戻ってくるよ。しばらく待ってみたらどうかな。」
と冷たく言われた。
サチの突然の失踪は、サトルにとって信じ難い現実となった。彼は何度も島を歩き回り、宿から交番までのお店や通りの人に、聞き取りしたが、手がかりはなく、ただ冷たい夜風が吹き抜けるだけだった。
彼女の足跡は、宿を出て、交番に向かう道で何かしらのアクシデントが起こったのは間違いない。
サトルの勘はあたっていた。
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