弓良サトル

これまで、過去は振り返らず、未来に進むことが大事だと信じていた。しかし、過去はタイムス…

弓良サトル

これまで、過去は振り返らず、未来に進むことが大事だと信じていた。しかし、過去はタイムススリップして楽しむ「箱」であることがわかった。 ただ、その「箱」を開けることできなかった。いや、開けようとしなかっただけなのかもしれない。 「今」この瞬間から、「箱」を開け、新たな物語を始める。

最近の記事

ドライブ アイランド【第四章 闇の中の真実】

 サトルは、島のみんなが嘘をついているような気がしていた。  浴衣の女性がひとり島を歩いていたら目立つし何か、彼女の身に起こったとして、きっとそれは、誰かの記憶に残るはずだ。  でも、申し合わせたように、島の人たちは何も見ていないし、何も知らないという。  途方にくれ、宿に帰りどうしようもなく、頭を抱えサチを待つしかなかった。そのうち、サトルは疲れ果てたのか、ビールのせいか眠ってしまっていた。そして朝方、夜明け前に目を覚ました。 サチは依然として帰ってこない。  部屋で

    • ドライブ アイランド【第三章 謎の失踪】

       夕方、島を一周した後、二人は宿に到着した。島を一周したあと、まだチェックインまで時間があったので、もう一周ドライブすることにした。  他に行く場所は、神社と頂上付近の、空海展望台が観光マップに掲載されていたが、話に夢中で、それどころではなかった。 「電話の相手は、男のひと?」 サトルは聞いた。 「うん、どこかで聞いたことのあるような声なんだけど、誰かは思い出せないの,,,」  島を一周するのに時間はそうはかからないが、空間の把握ができず、時空のトンネルの中にいるように、過

      • ドライブ アイランド【第二章 誰かに尾行られている】

         島の沿岸にある、石畳の雁木をしばらく歩いた後、サチは立ち止まった。瀬戸内の島の風景は、秋から冬に向かう時期で、海が荒れはじめる前の白い波しぶきがぶつかり合い、分厚い雲がどんよりと空を包み、青空は見えなくなっていた。  風だけは、二人の間をすり抜けていった。  次の瞬間サチは、まるで、ネジの巻き終えたロボットのように動かなくなり、黙り込んだ。  そして、下を向いたままサトルのほうに視線を向けないまま、声を圧し殺して、囁いた。 「振り向かないで、誰かに…尾行られている気がす

        • ドライブ アイランド【第一章プロローグ】

           雨の音。  ほかには何も聞こえない。「サー」と間断のない連続音。怒り、苛立ち、憎しみ、嫉妬、失意すべての感情を癒してくれる。  損失や失敗、過ち、すべてを「無」に帰す時間がある。  瀬戸内海に橋が7つ架かる島を彼女と、ホンダのインサイトに乗りドライブして渡っていると、カーステレオから、バッハのゴルトベルク変奏曲アリアが静かに流れてきた。  サトルは、いつもの「私」ではなく、非日常の「自分」に変身している。  しかし、島々の風景は以前とかわりなく静かに佇んでいる。  運転

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          ドン底にいると感じた時によんでほしい【短編小説】

          カーステレオから、「今日負けたら借金を背負うことになります!」とアナウンスがあった。 ひとつ勝つことのむつかしさ。 八月までは、無失点に抑える投手陣は、今は、気づいたらタイムリーヒットをあっさり打たれる。 何が原因なのかわからない。 14個も貯金があったのに。 今はゼロ。 いったいどこへいった。私のお金。 無くなるときはあっという間だ。 仕事も同じだ。 信頼は築いたのに、また一瞬で失われる。 「名前の読み仮名で、濁音が、ある、ないでは、申請書は受け付けられない。

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          ホノルルマラソン経由東京行きの恋人【短編小説】

           バリ島から帰り、また仕事場に戻る。職場のお土産は、バリで購入したチョコレート。  上司からは、「裸の旅は楽しかったか?」と少し嫌みを含んでいた。  僕は、笑顔で返した。「すごい暑かったです。途中、道に迷っちゃいましたよ。」  僕は、とても疲れていた。笑顔の裏は泥のように眠りたい気持ちでいっぱいだった。  次は、12月のホノルルマラソンに向けて、フルマラソンの練習を始める。フルマラソンは、ゴールするのは簡単ではない。当時、モデルの長谷川理恵が毎年、ホノルルを走ることで、脚

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          プレッシャーに打ち克つには【野球小説】

           期待されることを当然のように行う難しさ 何を隠そう僕は、試合で抑えをいつも任されている。 いつもゼロ点でピシャリとしめて、セーブすることが当然で球界屈指のストッパーなのだ。 しかし、この日は違った。天王山の首位攻防戦。 2点リードで迎えた9回表。これを勝てば、セーブをまた増やせる。年棒だって来年は上がるだろう。 チームだって優勝に近づく。 「優勝?そう言えば、俺、優勝した経験ないわ。」 【どんな気持ちなんだろう。嬉しいのかな。中崎さんは経験者だけど、今は無口で、キャッチ

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          仕事でやらかした時に【エッセイ】

          九月に入ったが、いまだ暑い日々。 今日からカープは巨人と首位攻防戦の三連戦。 カーステレオのアナウンサーから、「初回にホームランを打たれました!」とおしらせ。 雲行きはすでにあやしい。 いつも仕事帰りにはジムに寄って三キロのランニングと筋トレをして、サウナで汗して気持ちを切り替えるのだが、駅前は真っ赤なユニフォームの人だかりで、渋滞だ。 ジムにも入れない。 ふと、歩道を見ると、おしゃれな熊男があるいていた。 今日は朝から嫌なことがあった。 昨晩の出来事 「就業時間外に

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          バリ島経由ホノルルマラソンの恋人【短編小説】

          避けられない選択  ある選択をすると、人生が大きく変わる。  しかし、その選択をしようがあるいは別の選択をしたとしても、今いる現在の状況は変わらないのではないだろうか。 ことさら若いときの恋愛においては、すべて未来につながっているとは限らないし、その時点では他者のため、自分のため意味のある出来事なのだ。  僕は26歳を迎えた。  ナオミを好きだった。  しかし、好きなのか男の責任感なのかは、すでにどちらでも良かった。  それくらいに周りが見えず、声も聞こえなかった。

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          バツイチ独身と既婚者はどちらが幸せなのか【エッセイ】

          研修のあとの飲み会 ある夏の土曜日に、半日オンライン研修を受けなくてはならない日が一年に一回ある。 「あー、研修終わったら飲みに行こう。」と心に決めて、ライングループを閲覧する。 「あった。このグループは定期的に飲みに行ってるから、誘えば何人か集まるだろう。」 「今日、飲みに行ける人、集合!」 「いく!」二人。 サトルをあわせて三人。 さっそく、食べログかホットペッパーグルメで検索。さすがに、当日の予約はむつかしい。 個室で一軒、河岸が見つかる。 「お疲れ!元気だっ

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          大事なモノを捨てられた時に読んでほしい【エッセイ】

          大学時代の想い出  大学時代アナーキーに迷彩の短パンをはき、黒いTシャツに英語の単語の入った「time bomb」のをよく着ていた。  レコードマップを片手に大阪の心斎橋界隈の三角公園付近や京阪線のローカル店まで、歩き回った。 レコードのジャケットをパラパラめくり、表紙のデザインで品定めをする。  第一印象で、中身を聞かず購入することをジャケ買いといい、帰ってからターンテーブルに乗せてゆっくり針を落として、出だしのノイズが響く小刻みな音、「ザザッ」が好きだ。メロウなコアミ

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          世界経済の行方を読む【年末の日経平均株価予想】

          「誰かのために働くのであって、決して自分のために働くにあらず。」 株式投資は、大企業を応援するため、株式投資は、利益を追求するため、どっちだろう? お金は稼ぐのは手段で、使うことが目的のはずである。 2024年7月31日に日本銀行総裁:植田和男は、日本銀行は経済・物価情勢を注視しつつ、緩やかなペースで追加利上げを実施すると発表した。 メインシナリオでは2024年10-12月期に短期金利を0.25%に引き上げ、2025年以降は年0.50%(年2回)のペースで利上げを行うと

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          真夏の夜の夢【エッセイ】

          「あなたの10年後、20年後または死ぬ前になって思い出す人になりたい。  結婚すると現実の人だけど過去の二人はいつまでも、輝いたままの二人でいられるから、笑顔で別れよう。」 心に染みるお別れの挨拶だ ある暑い夏の夜。 「雨だね。雷も鳴っている。怖いね。」  ふたたび彼女は、腕枕のなかで寝息を「スースー」と心地よく耳元ではいて、僕を安心させてくれる。  また雨とともに雲の上では轟々と何か噴出しそうな音が鳴り響く。 目が合う。そして、沈黙。 彼女は僕の目を見つめて目をつ

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          祭りの後の深夜の出来事【エッセイ】

          「こちら、祭りのあと、そちらはいま何してますか?」 トランシーバーの周波数をあわせる。 「こちらは、疲れと空腹で大変です。」 夏の暑い夜、花火は打ち終わり、フィナーレを迎える。 会場では、司会者が閉会の挨拶を告げる。 一週間前にラジオに出演をした。 「今回は私たちの祭りについてインタビューを受ける機会をいただき、ありがとうございます。  今年も地元の伝統と文化を継承しながら、皆様に楽しんでいただけるよう、様々なイベントを用意しております。 祭りは地域の絆を深め、新し

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          花火の向こう側で【連載小説】

           7月の終わりの土曜日。  暑い熱帯夜の九時頃に夜空を彩る花火が上がる。  マンションの屋上から眺める、山間にあがる花火はまるでコロナ渦で失われた時間を取り戻すかのように弧を描き乱舞した。  花火が打ち終わり、祭りの最後を告げたあとでも、その残像と夜空を照らす微かな灯りは、夜のとばりに、失った魂を探し出すようにいつまでも余韻を残した。  僕はコンビニで、買った線香花火やらとバケツに水を入れて庭にでて、余韻を感じながら、一人で屋上で花火をする。  暗闇の向こうから、オールドフ

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          夜明け前に目覚めて隣の彼女にする会話【連載小説】

           喉の乾きのためか、昨晩飲んだ、ウィスキーが濃かったせいか、僕が目を覚ましたのは、夜明け前の4時だった。隣で、向こう向きになって眠り込んでいる彼女は、静かにスースーと寝息をたてている。  やっとの思いで、狭いベッドから立ち上がり、ふらつきながらも、キッチンの流し台で、蛇口をあけ、少年野球の夏の練習のあとのように浴びるように水を直接蛇口から飲んでからベッドに戻った。  窓の外を見ると、薄明かりがさして海が見える。 海の上には、堂々と大型貨物船が停泊している。  僕は、ベッドのサ

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