エッセイ : あの選択をしたから(大工さんの建てた家と住宅メーカーさんの建てた家)

僕は結婚して少しして家を建てた。
将来的に両親と同居する予定だったので、亡くなった父に相談した。僕は当時流行りの住宅メーカーさんの近代的な家にしようと思っていた。ところが
父は、家は大工が建てた家じゃなきゃダメだ! と
反対し譲らず、大工さんに建ててもらった。
純和風の日本家屋だ。白いモルタルの壁に瓦の屋根
だが、30年後の今、僕は家を大工さんに建ててもらって良かったと思っている。 
でもそれは、僕が下した判断だ。
住宅メーカーさんに家を建ててもらって良かったと思っている人達もたくさんいる。
家というのは建ててしまえばそれで良し、というものではない。定期的に手入れをしなくてはならないものだ。意外とこのことを知らない人が多い。

1、大工さんの建てた家と住宅メーカーさんの建てた家の根本的な違い

大工さんの建てる家というのは、簡単に言ってしまうと、まず家の四隅に太い柱を建て屋根をのせ、その上に重い瓦をのせて家全体を安定させ、その後、左官職人さんが壁を塗って完成という建て方だ。
僕の家は2階建ての建坪37坪の家だが、屋根にのっている瓦の重さは約6トンだ。
だが、この瓦の重さが僕の家を安定させている。

住宅メーカーさんの建てる家というのは、家の四隅に太い柱を建てない。
パネルの様なものを組み合わせるような建て方にも見える。四隅に太い柱を建てないので、壁に強度を持たせる家になる。つまり壁がその家の要になる。
壁に強度を持たせる家の特徴 
1)、屋根に余り重い物をのせられない
屋根自体が小さくなる。屋根が外に突き出ている
所謂、軒天という部分が殆どない。
普通の重い瓦をのせられないから、スレート瓦の様な軽い瓦をのせている。
2)、壁に余り穴を開けられない。
窓が小さい、あるいは少ない。だが気密性には優れている。が一方でハウスダスト対策も必要となる。
3)、耐震性、耐熱性に優れている
4)、アフターメンテナンスが充実している

2、家は建てた後、メンテナンスが必要 
家は建てた後、メンテナンスが必要だ。1番必要なのは屋根と外壁の塗装だ。世の中、たくさんの塗装屋さん、リフォーム屋さんがあるのはこのためだ。 
家にとって1番大敵なのは湿気。1番の湿気は雨や雪によるものだ。だから家の屋根にも外壁にも防水塗装がされている。塗装は塗料を塗るものだが、その防水効果は永遠に続くものではない。塗料の1番の大敵は紫外線。紫外線によって外壁等に塗ってある塗料の防水効果は年を追うごとに減少して行き、
約12年〜15年で防水効果はなくなってしまう。
つまり雨や雪の水分が家に浸透していき、家自体が
劣化してしまう。
大工さんの建てた家ならまだ良いが、住宅メーカーさんの建てた家は壁が要、外壁から水分が浸透し、壁の強度が弱くなるのは問題だと思う。

3、屋根の種類別メンテナンス    
1)、粘土瓦屋根 
大工さんの建てた家の屋根に使われているのが、普通の瓦、所謂、粘土瓦だ。粘土であるため塗装をするというよりも、瓦が古くなったら新しい瓦に葺き替えるものだと思う。
2)、トタン屋根
トタンという物は錆びる物。
錆は酸化によって発生するが、厄介な物でカビの様にどんどんと広がって行く。しかもトタンを侵食していく。トタンの厚さはわずか0.1mmなので、
錆をそのままにしておくと穴が開いてしまう。
穴が開いてしまうとトタン全部を取り替えなくてはならないのでかなりの費用が発生してしまう。
常に塗装などにより錆止め対策が必要となる。
3)、スレート瓦屋根
スレート瓦は防水効果がなくなり侵食が進むと、
屋根の上を歩いただけで割れてしまうほど脆くなってしまう。
そうなると、スレート瓦自体を葺き替えするか、
ガルバリウム鋼板等で屋根全体をカバーするしかなくなってしまい莫大な費用が発生する。
最低15年に1回は防水塗装すべきだと思う。
4)、それ以外にモニュメント瓦等があるが、僕は専門的知識が余りないので、心配なら専門の業者さんあるいは住宅メーカーさんに相談した方が良いと思う。

4、外壁のメンテナンス  
外壁の塗装をしなくてはいけないかを知る簡単な方法がある。家の外壁を手で触って、白い粉の様な物が手についたら(チョーキングと言う)防水効果がなくなり、外壁を塗装しなくてはいけないということだ。
大工さんの建てた僕の家の様な外壁にはモルタルの壁が多い。住宅メーカーさんの建てた家には、鋼板サイディング、窯業系サイディング、ALC等の壁がある。いずれも最低15年に1回は防水塗装が必要だ。外壁の種類によっては、防水効果がなくなり、
外壁の内側に水分が侵入し冬になり結露すると、
外壁が膨らんだり、最悪、爆烈という外壁に穴が開く現象が起きることもある。

5、古民家 : 僕が思う日本最強の住宅
僕が思う日本最強の住宅は古民家だ。古民家というのは築50年以上の家だ。
木造軸組み工法という日本の伝統工法で作られていて、台所のような湿気の多い場所には欅や栗の木を
その他の部分には杉などを使う工夫もされている。
何よりも太い柱に支えられた頑丈な家で、外壁も、
日本の気候風土に1番合った最良の漆喰の壁で出来ている。地震にも耐えられる屈強な家だと思う。
神社仏閣、歴史的建造物はこの工法に近い。だから何百年の歳月に耐えて来た。
古民家は寒いという人がいるが、それは冬にストーブ等で暖を取ろうとするからだ。
古民家には囲炉裏がある。僕の父の実家は古民家だった。今から10年程前に改築してしまったが。
僕が小学生の頃、冬に父の実家に行くと、囲炉裏に火が燃えていた。そして祖母がそこで料理を温めていて、家族全員で囲炉裏を囲みお茶を飲みながら楽しく話をしていた。
囲炉裏から煙が出るので、父の実家の古民家は2階建てだったが、囲炉裏から屋根裏までは吹き抜けになっていた。だから夏は涼しかった。囲炉裏に火が燃えていると、今流行りの薪ストーブよりも家の中が暖まる。真冬でもTシャツでいられるくらいだった
囲炉裏のお陰で翌朝目が覚めるまで、家の中は暑いくらい暖かだった。
囲炉裏から出た煙の上に食べ物を吊るしておくと燻されて燻製のようになる。たくあんはいぶりがっこと呼ばれるくらい美味しくなる。
正に日本の気候風土と生活習慣に最適の家だった。

戦後、日本が高度経済成長期に入り、所得倍増計画が進んで行くと、皆、自分の家を建てたいと思うようになった。
だが、そんなに所得が多いわけではなかったため、
手頃な値段で建てられる家が求められた。
大工さんは漆喰の壁ではなく、モルタル等の壁を使わなくてはならなくなってしまった。

更に時代が進み、早く家が建てられるというニーズが出て来た。そしてまた、家に耐震性、耐熱性を求めるというニーズも生まれた。
このニーズを受け、住宅メーカーさん達が、壁に強度を持たせる家を開発した。

僕の友人の住んでいる家は地元の住宅メーカーさんに建ててもらった築20年の家だ。その友人はその家を建ててから何のメンテナンスもして来なかった。
友人の家の外壁は、小さな長方形のタイルというかブロックの様な外壁、窯業系サイディングのなかの
1つの種類だ。
ある日その友人は、家の外壁が少し盛り上がり、全体的に反っているのを見つけた。リフォーム屋さんに見てもらうと、今、外壁塗装をしておかないと、外壁が剥げて落ちて来ることになる。そうなると、外壁全てを張り替えなくてはならなくなり、莫大な費用がかかってしまう。また、スレート瓦もこのままにしておくと脆くなり割れてしまうと言われ、屋根と外壁の塗装をすることにしたと言った。
費用は最低200万円必要だそうだ。

僕の家は大工さんの建てた粘土瓦のモルタル壁の家だ。僕の家には大きな窓がたくさんある。1階の六畳と8畳の続き間には廊下があり、その面全てが大きなサッシの窓となり、そこから庭に出ることが出来る。僕の母は晩年、この廊下で日向ぼっこをしながら、よくお茶を飲んでいた。冬は確かに寒いが、
耐え難いほどの寒さではない。夏はこの大きな窓を開けておくと、自然の風が流れ込んで来て、エアコンの涼しい風は必要ない。
そのため、僕の家は屋根の塗装が必要なく、外壁も大きな窓が多いため、塗装する面積が少なく、全ての外壁を塗装しても、80万円位にしかならないと
地元の業者さんに言われた。
だが、僕のこの家、この暮らし方は、僕の様に地方の街に住んでいる人にしか出来ないかもしれない。
都市部では、防犯上のため大きな窓を開けっ放しにしておくことは出来ないだろう。
住宅メーカーさんの家のように気密性に優れた家で
エアコンで涼しい風を出して生活しなくてはならないと思う。

僕はあの時、父が、家は大工が建てた家じゃなきゃダメだ! と言った言葉通り、大工さんが建てた家を選択して良かったと思っている。
だが、これは僕の選択であって、人それぞれの選択があるものだとも思う。

大工さんの建てた家にしろ住宅メーカーさんの建てた家にしろ、家というものは家族の思い出がたくさん詰まったものだ。
家のお陰でその家族の幸せもあるのだと思う。
家というものは大切にしなくてはならないと思うし
僕は家を大切にしない人が余り好きではない。











#あの選択をしたから


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