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天国にいるはずの父からの着信に心臓が飛びだしそうになった。

亡くなって今年で5年になる父の仏壇に手を合わせると、いつものお線香が残り少なかった。
たまには奮発して、白檀のいいヤツを買ってあげよう。
そう思いついてスーパーに行った。

これ、これ、
この白檀のお線香、
父は好きだったなぁ。

ついでに野菜やら洗剤やら買って   
レジへ。
最近はセルフレジが気に入っている。
携帯のアプリを画面にかざし、キャッシュレスで
サッサと会計を済ませる。
なんと便利な世の中。

駐車場に戻ると辺りはすっかり暗くなっていた。
早く帰って夕飯の支度しなきゃ。
そう思いながら車に乗った瞬間のことだった。


マナーモードにしていたんだっけ?
低い振動音がバッグの中で震えた。
慌てて携帯電話を取り出し画面を見て心臓が飛び出しそうになった。


おとうさん。


えっ?


おとうさん…。


父の携帯電話は
死ぬ前にちゃんと解約手続きしたし、


そんな訳ない!!!


恐る恐る、通話をタップすると


「もし、もし!!」


聞いたことのない女性の声。
誰?この女。


おとうさんの愛人?
いやこんなに若いはずがない。
隠し子?
まさかね。


色んな妄想が一度に頭の中を駆けめぐり
怖くなって、携帯を思わず放り投げてしまった。


「もし、もし!切らないで!
そのスマホ私のです!」


えっ?どうこと?


頭が真っ白になり何がなんだか
理解出来なかった。


彼女の説明によると、
スーパーのセルフレジでスマホを置きっぱなしにしてたのに気づいてすぐ戻ったけど無かった。で、おとうさん(ご主人らしい)のを借りて電話したのだとか…。



えーーー。


と、いうことはこの携帯電話は彼女のモノで、
私の携帯電話は別にあるってこと?


車内のライトをつけ、
バッグの中を探ると確かに私のがある!


「ご、ごめんなさい!
自分のと勘違いして持ってきちゃいました!」


数分後、スーパーの入り口で待ち合わせをし、スマホは無事彼女の元に。


やれやれ…。


父の愛人や隠し子でなくて
良かった。
そして何より、
死んだはずの父、本人でなくて
本当に良かった。



家に帰り、
仏壇にさっき買ってきた
白檀のお線香と福砂やのカステラを
お供えした。


天国のおとうさん。


本当は白檀のお線香のお礼を
私に伝えたかったの?


ゆるやかに、しなやかにうねりながら
立ち昇る優しい煙り。
それが父からの返事だった。



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