行きつけの喫茶店が急に店を閉めた。 そこは不思議な空間だった。 店主のママは高齢だが品が良く、笑顔が素敵で、 彼女の淹れる珈琲は抜群に美味しかった。 数年前からどうも様子がおかしかった。 注文がなかなか取れなくて、何回も聞き直したり、間違えていたり。 行きつけだったし、仲良しだったのに、 ある日、私をはじめての客を見る目で いらっしゃいませ!といわれたときはさすがに ショックだった。 でも珈琲の味だけはいつも完璧で、揺らぎがなかった。 甘さと酸味のバランスが絶妙で、ナッ
2023年がまもなく終わる。 人生の節目だった今年は本当に色んなことが あった。そんな中でも特に印象的な出来事が ふたつある。 ひとつは、noteデビューできたこと。 随分長い間、やりたい、やりたい、と 思いばかりが先走りしていたが 遂に今年念願を果たした。 始めてみると、様々な人たちの人生ドラマに感動したり、共感したり。 時には、沈みがちな気持ちを励まし背中を押していただいたりして感謝しきれない。 気持ちが動かないと文章が書けない性分なので、 皆さんに刺激を受けなが
勇気をだして温泉に行った。 私にとっては一大事なのだ。 何せ、3年ぶり。 乳癌になり片胸を切除した。 だから温泉には行かない。 行けるはずがないと思っていた。 でも、そんな思い込みは 捨てることにした。 人生は今を楽しまなくちゃ。 noteを初めてから、色んな人の記事を読んで 心からそう思った。 そして思うだけでなく行動するのだ! 近場にいい温泉施設があると以前、 友人が言っていたのを思い出した。 源泉かけ流しで露天風呂もあるらしい。 平日の朝イチなら人も少ないだろう
初恋の人に振られた傷を 引きずっていた頃。 当時短大に通っていた私は地下鉄に繋がる アーケード街のアパレルショップで バイトをしていた。 雨あがりの昼下がり。 店長におつかいを頼まれ店を出た瞬間、 金縛りにあったように身体が硬直した。 初恋の人に似た横顔。 バニラのようなタバコの甘い香り。 あっ彼…。 慌てて店に引っ返し、 「すみません、急に用事ができたので!」 その人を見失しないたくない一心で 後を追いかけた。 店長はポカンとした表情だったが もう、どうでも良か
中学に入ると同時にピアノを習い始めた。 自分でも驚くほど下手くそで、 センスがないことは最初からわかっていた。 時々コンクールのようなものがあって 仕方なしに出たが毎回散々だった。 自分の出番になると頭が真っ白になって鍵盤の上 に手を置いたまま固まってしまったこともある。 コンクール終了後の集合写真は特 に嫌いだった。今見てもほかの子どもたちは満面の笑みなのに私だけ魂が抜けたような渇いた表情をしている。 中3の時、クラス対抗の合唱コンクールでピアノ伴奏をやらされた。ピア
地域情報ウェブマガジンのライター。 AEAJ日本アロマ環境協会アロマインストラクター、アロマセラピスト資格取得。福岡県在住。 お香マニア。特に和のお香の収集癖あり。 大失恋した時も、 夫に裏切られ生きる希望を失った時も、 乳癌になって片胸を失った時も、 気がつくと、いつも、やさしくて温かい 香りが私を包み込んでくれました。 目に見えないけど、懐かしい、安堵感のある匂い。 たまたまなのか、 同じ季節だったからなのか、 それとも幻嗅? 不思議だけど表現できないもどかしさを