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はんぶん


プロローグ


私の右耳に、口元が近づくのを感じる

幼いながら、聞こえる"ふり"をしていた
私は、いつからか右耳が聞こえない。

詳細は不明
幼少期の高熱が原因とされた
調べてみたところ、ムンプス難聴というワードが一番しっくり来た。

神経が死んでいるから補聴器は使えないし、障がい者手帳は対象外
目には見えない障がいと上手く付き合っていくしかないのだ。

聞こえない

  • ショッピングモール

  • 大人数の飲み会

  • 横並びのデスク

  • 映画館

苦手だ。
音のする方向が分からないし、雑音の中では聞き分けが難しい。
居心地のいいポジションが取れなかった時ものすごく神経を使う。
ちなみに24時間、耳鳴りがしている。(聴力を補うために鳴るらしい)

コミュニケーションは至って普通にできる
ほんの少し、生きづらいのだ

発覚


小学校での聴力検査
検査者の手元を見れば音が鳴るシステムなのは分かっていたから
聞こえてないのにボタンを押していた。幼いながら防衛していたのだろう。

それでもある年、正直を選んだ
すると検査者である先生から返ってきた言葉は
「なんで押さないの?」だった。

検査方法の理解ができていないと思われたのだろう
そこで私は、「聞こえないんです」とは言えなかった

親にそのことを打ち明け、大学病院でなんやら沢山検査をした。
そう。近くにいた親でさえ気づかなかったのだ。
(出生時の聴力検査は問題なかったから)

ショックだったろう。でも自責はしないで欲しかった。


大好きな波の音


学生時代
就職に向けた面接練習
担任とは、片耳が聞こえないことについて話し合ったことは無かったのだが
就職先には自分から開示しなさいと言った。

私は、怖かったのだ
片耳が聞こえないことを他人に言うことが。
無視をするだの、耳遠いだの言われた思春期もある

"嫌われたらどうしよう、変に気を遣わせるのは嫌。"

そもそも、言わなければ気づかれないような障がいであるが故
自分が我慢すればいい、そんなもんだから、どうせ…と
諦めに近いような感情を抱いていた。

当時はいろんなことに自信がなく
そもそも、自分があまり好きでなかった。

社会に出ることは人よりも不安を抱いていた。
希望の就職先は沢山人がいて、雑音の中働くのは想像できたからだ。
いのちに関わるような情報を逃したらどうしよう

ただ、私がやりたいこと
働きたい場所ではあったから前に進んだ。

開示しなさい、という担任に
私は、弱みをさらけだすことを強要された可哀想な人だと落ち込んだ。

ただ、続けて担任は

あなたの弱みは強みでもある
誰よりも患者さんの弱みに耳を傾けることができる。と言った。

今思えば
開示しなさい、というのは愛のある喝。
あの時の鋭い眼差しはずっと焼き付いている
後から言われた言葉も嬉しかったこと、そしていろんな不安が重なり
面接のことを忘れ、その場でわんわん泣いた。恥ずかしいね。

きっと先生も言葉をすごく選んだのだろう。
この出来事は、私にとって大きかった

その後難なく、とはいえないが
働きたかった場所で働けている。
そしていまも先生からもらった言葉がお守りだ。

あの時、片耳が聞こえないことを
デメリットやコンプレックスにしか思っていなかったから
良い風に言われてちょっぴり自信がついたのは確か。

弱みだと思っていたものが、実は強みで
視点を変えることの大切さを教えてくれた先生、ありがとう。

仲間


ふとSNSで検索してみると、同じような境遇の人たちが沢山いた。
聾者(全く耳がきこえない方)や補聴器ユーザーの方
お子さんが生まれつき難聴だったり・・・様々な方がいて

いろんな経験談を目にして
わたしの悩みなんかちっぽけに思えたけれど
でも、共感できることがほんとうに嬉しかった。

みんな共通して言えたのは
障がいを受け入れて前を向いているということだ
私だけじゃないんだと、沢山勇気をもらった。

そこから、サークル活動に参加してみたり
手話を学んでみたり。

以前ならしなかったであろう選択を
沢山するようになった

そして、悩みをもつ人に対して耳を傾けることが天命なのだと感じ
ひとに寄り添うことの意味を知った気がする。
自分のことが少し好きになれたのだ。だから他人の心にも目を向けられる。

聞こえない自分が嫌だ、の思考から
片耳が聞こえないのも私。それも含めてご自愛しよう。

ここまで成長できた今
ほんとうに生きやすい。

ただ、この過程の中で出会った友人にはまだ打ち明けられていない
(言おうと思えば言えるけどね)

これから出会う人には
自己紹介のとき生年月日と同じトーンで言えると思う。

弱みを受け入れ
世にさらけ出すことができる勇気をもった、いまの私は強い。

おわりに

コンプレックスがあるから生きづらいとか
自分を好きでいなくちゃならない、ではない

コンプレックスも含めて唯一無二のわたしなのである
だから、みんなにも自分を好きであってほしいし
自分自身という存在を、一生かけて守るべきだと思う。

今日もお疲れ様、がんばったねと抱きしめてあげてください。
明日もみんなが幸せでありますように。




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