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小説:剣と弓と本003「血」(617文字)

 俺は反射的に剣を構え、そいつに飛びかかる。右肩を軸にして上から下へ弧を描くように斬りつける。
 ガギギッという音をたてて、そのむき出しの牙が俺の剣を噛みしめる。剣を奪われてはまずい。両手で柄を強く握りしめる。
 ワニ頭は右手を振リ上げる。長い爪が光る。この俺の首を切り落とそうという魂胆のようだ。どうする? 剣を捨てバックステップで回避するか?
 その時、何かが後ろから飛来しワニ頭の右手にバシュッと突き刺さった。矢だった。痛みに呻き、剣を噛み締める顎の力が抜ける。
 その瞬間背中に何か熱いものを感じた。ダメージはなさそうだ。気にしていては遅れをとる。俺はそれを探るのをやめ、目の前のワニ頭にだけ集中することにする。さっと剣を引き、柄を左肩に寄せる。そのまま右へ剣を走らせる。驚くべきことに剣がいつもよりも軽い。自分の意図を越えて、刃が軽やかに舞った。ワニ頭の首を切り落とすことに成功した。首は自分の足元に転がり、身体はゆっくりと真後ろに倒れる。

 ――剣を振り、敵の息の根を止める。
 この行為はもはや俺にとって日常だった。もう、ずっと前から。
 どんな生き物にも血は流れている。その鮮やかな赤をできれば見たくない。生きるために仕方なく殺す。この俺が死なないために? 生き残るためだけに?
  ……考えるな。考えるなよ。俺よ、セドよ。隊長とは言え、学のないただの兵士だ。敵は敵だ。それだけだ。ただ目の前の敵を倒せばいい。殺せばいい……
(つづく)

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