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YouTubeに流れるコンプレックス広告を作る仕事をしていたはなし

 大学ではいろんなアルバイトをしてきましたが、最もインパクトのあったお仕事の一つがコンプレックス商材を販売するための広告を運用する、というものです。厳密には長期インターン生として採用されていました。やめた理由の詳細は伏せますが、端的に言うと「マジで最悪な仕事だな」と思い、会社への信用がなくなったからです。私が辞めてしばらくして、会社はなくなったみたいです。先に言っておくと、コンプレックス商材は効果がないことがほとんどです。というのも、効果がなかったところで会社側にダメージがないから。例えば資生堂が販売している美容液の効果が0だったとすると、それはブランドイメージを傷つけることになり会社のダメージになります。でもコンプレックス商材を売る会社のほとんどはそもそも傷つくブランド力を持っていないことがほとんどですし、医薬品でないため効果を保証する必要もありません。詳しくは下記を読んでいただきたいですが、効果がないことを理由に解約もなかなかできないため、会社側のダメージはほぼ無いに等しいです。

 では「どうしてあんな広告を流すのか?」ということについて運用していた側の視点から書いてみたいと思います。多くの方にとってそんなの知ってるよ!という話ばかりかもしれませんが……。読み方によってはコンプレックスに訴えかける広告の存在を正当化するように読めてしまうかもしれませんが、現在の私はあのような仕事は最悪だと思っている、ということだけ理解していただければと思います。

コンプレックスに訴える広告がなくならない訳

 端的に言えば、「お金になるから」。これ以上でもこれ以下でもありません。具体的な金額は控えますが、初めてYouTube広告がバズったときは売り上げが30倍以上になりました(!)。今YouTube広告に「太っているせいで彼氏にふられた!」とか「脱毛してなくて女として見られない!」みたいなものがたくさん流れるのは、実際に購入している人が多くいるから。YouTube広告が盛んになったのは大体1年前くらいからで、その前はインスタグラムの広告やリスティング広告(Googleで検索したときに上に広告の記事がが表示されるアレです)、さらにその前はTwitter広告が主流、という風に短いスパンでトレンドが変わるようなので、あと1年もすればもしかしたらYouTube広告は消えるかもしれないですね。この会社のこの広告がバズったらしい」という情報は瞬時に同業他社に共有されます。意外とばちばちライバル関係、というよりもみんなでこの業界を盛り上げていこう!みたいな意識の方が強かったように思いました。だから一回YouTube広告がバズればみんな一気にYouTubeに着手するし、別の広告がバズればすぐにそっちに移行すると思います。

 お金のことしか考えていないのか?と思われるかもしれませんが私がいた会社は本当にお金のことしか考えていませんでした。webの広告はテレビCMや紙の広告と異なり、「この広告を流したことで○○人が購入し、〇〇円利益がでた」ということが詳細にわかってしまいます。そして基本的には複数のタイプの広告を同時に運用し、最も効率よく多くのお金を稼げる広告を探っていきます。売り上げの上がらない広告は取り下げ、新しいタイプを運用する、ということを繰り返していくうちにお金以外の判断基準が失われていきました。内容はより過激に、人の劣等感をくすぐるものに。私もよく提案しては「もっと過激にしてよ!」と社員に言われていました。私の頃は特にVTuberを使った広告を作っていました。(一時期やたら胡散臭いVTuberが広告に登場することありませんでしたか?あれです。)最近は突拍子もないストーリーで最終的に商材の提案につなげる、というパターンが多いので話の奇想天外さが求められているのかもしれません。

 さらにYouTubeで広告を運用する場合、(YouTubeに限りませんが)運用費をYouTube側に取られます。ただ流すだけ流して一個も売れませんでした、という場合にはもちろん赤字になってしまいます。さらに「○秒間再生されたらお金が取られる、さらに○秒間再生されたら追加でお金が取られる」というようなルールが決まっているため、「買う人にはしっかり広告を再生してもらいたいけれど、買わない人にはできるだけスキップしてほしい」と運用側は考えます。だからこそ買わない人からしたら「なんでこんな広告を見て買うんだ?」というような頭の悪そうな広告を流し、早めに動画をスキップしてもらうようにします。これは私が運用していた当時のルールなので、今は違うかもしれません。

 罪悪感がなかったのか?と聞かれると正直なところありませんでした。「太っているせいで彼氏にふられた!でもこのサプリを飲んだら15kg痩せた!恋も成就❤️」みたいな広告を見て買う人に対して「バカだなぁ、そんなわけないのに」としか思っていませんでした。今でもあれを見て買う人の心理は理解しかねますが……。もちろん「馬鹿だから騙していい」というのは詐欺師の理論なので到底正当化できるものではありません。ただ私のいた会社は社員が10人にも満たない小さな会社で、「売り上げを取らないことには潰れてしまう、綺麗事は言っていられない」という意識が共有されていました。周囲も疑問を持たずに(もしかしたら内心で持っていた人はいるかもしれませんが)仕事に取り組んでいたので、ある意味洗脳されているような状態で罪悪感も持たずに運用をしていました。そもそもwebで広告運用して販売している会社は実店舗を持つ力もない会社であることがほとんどなので、他も似たような状況だったのかもしれません。

取締りはできないのか?

 YouTube広告は現状はコンプレックスを煽る広告に対して無法地帯と化しています。その一因に、広告を運用しているのは多くの場合会社それ自体ではなく、運用を引き受けるアフィリエイターであることが挙げられます。(noteを読む人であれば知っている人がほとんどかと思いますが、アフィリエイターとは個人で広告を運用するなどして、契約した会社の売り上げを増やそうとする人のことです。一件売れるといくら報酬、という風に成果報酬型の契約がほとんどです。)例えば「飲むと痩せるサプリ」を販売している会社が自社で「これを飲むと5kg痩せる!」と謳って販売してしまうと薬事法に違反します。(景品表示法とかその他にも違反するかもですが、そこは詳しくないので割愛します。)しかしアフィリエイターの場合は「私が飲んだ時は5kg痩せた、という体験談を紹介しました」という体裁をとるとあくまで個人の一例になるので法律に抵触しづらくなります。そのため過激な広告はアフィリエイターにやらせているものがほとんどです。アフィリエイターからしてみれば会社のブランドイメージなんて知ったこっちゃないので、ますますお金を稼げばいいだけの低俗な広告が増えていきます。ただ私みたいに「アフィリエイターがやっているように見せかけて実は会社でやっている」というタイプもいますが。

 個人的な体感としてはGoogleやそのグループ会社のYouTubeは規制が緩く、模倣地帯と化しやすい状況にあるように思います。例えばYahoo!で広告を運用する場合はアフィリエイターは参入できないとか、LINEではLINEに認められた会社しか運用できないとか。インスタグラムやFacebookも過激な内容のものは規制されやすく、アカウントも停止しやすかったです。ただすぐに新しいアカウントを作れてしまうのが問題ですが……。YouTubeも、例えば露出の多い写真を用いた広告などは審査が通らないようにできていますが、漫画風の動画だとそれも取締りにくいです。私個人の考えとして、YouTubeからコンプレックス商材の広告をなくす方法は3つあると思います。

 1つ目はYouTube側の規定を厳しくすること。単純にコンプレックスを増幅させるような広告を禁止することですね。ただ私の印象としてはFacebookよりもGoogleの方が、そういったウェルビーイングを考慮する姿勢みたいなものが欠けている印象があるので、難しいかもしれません。適切に取り除いてくれるAIが開発されても、また別の嫌な広告が出てくるかもしれないですし。Yahoo!みたいにアフィリエイターが参入できないようにすればいいと私は思いますが、そう単純な話ではないかもしれないです。YouTube側にとっては利益が大幅に減ることになるわけなので……。もしくはそういった広告をうまく取り除いてくれるブラウザを開発できればいいですが、それもなかなか技術力が必要になりそうですね。

 2つ目は新しい、よりバズる広告の在り方を見つけること。ああいう会社やアフィリエイターに倫理とか道徳を求めても無理なので、単純によりこっちの方が稼げるよ!という事例を提案することです。それでいいのか?という感じもしますが受け手側にとっての広告に対する最悪な印象は多少和らぐかもしれないです。

 3つ目は、定期購入の通信販売でもクーリング・オフをできるようにすること。個人的にはここが一番変わって欲しいな、と思います。広告を最後まで見てサイトに飛んだことがある人ならわかると思いますが、コンプレックス商材は多くの場合「初回〇〇円!」という破格の安さに見せかけて定期購入をさせる、という悪質なものです。300円のサプリを買ったつもりが半年間毎月3000円を払わないといけない、みたいな事態になりかねません。YouTubeをはじめwebで広告を運用するのには結構お金がかかります。さらにアフィリエイターへの報酬、仲介業者の報酬を加えるとかなり広告費がかかるため、そこまでして売り上げた商品が1個数百円では大赤字になってしまいます。だからYouTube広告の商品が数百円で買える、なんてことは基本的にあり得ません。しかも通信販売の定期購入では法律でクーリング・オフが義務付けられていませんし、コールセンターや会社は解約したい人をかわすプロなので簡単に解約することもできません。

おわりに

 ここまで書いて「ほとんどの人が知っている話なのでは?」という気もしてきてしまいましたが、noteを書く練習がてらせっかく書いたので投稿しようかと思います。noteは広告が表示されない良いツールですね。

 私自身の経験としては「仕事ってなんなんだろう」と考える良い経験になりました。本当に客を金としてしか見ていない大人もたくさんいるんだなぁ、と。ただそんな大人ばかりではない、と信じたいところです。酷い広告の一翼を担ってしまった、というところに多少の罪悪感を感じますし、もしコンプレックス商材を買ってしまって嫌な思いをした人がこの記事を読んだら憤りを覚えるかもしれません。ごめんなさい。真面目に社員の言う通り売り上げを増やす広告を作ろうと頑張った結果、最悪なものを生み出してしまったのはなんだかなぁという気もします。時給は変わらないのに。サクラとしてレビューを書け、みたいなこともよく言われていましたがのらりくらりとかわしていてよかったな、と思います。騙す側は簡単に消えないと思うので、騙される側が少しでも減りますように。


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