エスペランサ

おらがまちのJリーグチームに、珍しくビッグネームがやってきた。

愛媛FCは、若手の育成には定評がある。
J1のクラブチームで出場機会が得られない有望な若手選手が、「修行」という名目でレンタル移籍してきては、主力として活躍。翌年、元のチームに戻り(巣立っていくという表現が適当か)、主力がごっそりと抜けたチームは、再びゼロからのチーム作りを余儀なくされる。
そんな繰り返しで、下部リーグへ降格はしないものの、「中の下」が定位置のクラブチームである。
ちなみに、齋藤学や森脇良太、髙萩洋次郎などが代表例。

4年前、一度だけ、5位というミラクルな成績を残し、J1昇格プレーオフに進出したことがあった。
昇格すれば、浦和レッズや鹿島アントラーズが砥部にやってくる!
そんな心躍る夢物語は、たまたまその年”まさかの降格”をしていたセレッソ大阪に見事に打ち砕かれた。
でも、あの時の興奮は今も鮮明に覚えている。
YouTubeで見た煽り動画の「3653日間の序章、そろそろ終わりにしよう」のコピーは強烈に胸に突き刺さった。

今思えば、あの年を境にスタジアムから足が遠のいた。
熱狂的とまではいかないが、オレンジのレプリカユニフォームに身を包み、選手入場時にはタオルマフラーを掲げて「この街で」を唄う、そこそこのサポーターであった。
ホームの試合は予定がない限りは現地観戦。アウェイの試合はスカパーで観戦。年間で2試合ぐらいは遠征して応援にかけつけた。

負けても応援し続けるというサポーター魂を持ち合わせていなかったわけではないが、応援している以上、やっぱり結果を出してほしかった。
毎年毎年ガラリと変わるメンバーを見ながら、今年こそは!と淡い期待をいだいた。
でも、結局いつもの繰り返し。エンドレス。
現地観戦をやめ、テレビ観戦をやめ、気づけば、速報メールで結果を知る程度まで興味を失っていた。
一言で言ってしまうと、「飽きた」のだと思う。

そんな中、元日本代表の山瀬功治選手が愛媛に入団というニュースが飛び込んできた。
Yahooトップで愛媛FCのことが話題になる事自体が何年ぶりだろうか。
久しぶりにチームのHPを見にいくと、明日TRマッチ(練習試合)が開催されることを知り、暇を持て余していたので見学に行くことにした。

試合は、愛フィールドという人工芝の練習用グラウンドで行われていた。
13時キックオフ。練習試合にもかかわらず100人ぐらいの人が観に来ており、山瀬の注目度の高さがうかがえる。
センターライン付近に空いているベンチを見つけ腰をおろした。
フェンス越し2メートル程向こうのタッチラインぎわを、背番号33番が駆け抜けた。

山瀬だ!

断っておくが、僕は山瀬のことが好きだったわけではない。
元日本代表、元横浜Fマリノスの10番。レッズとかコンサドーレにいた人。
その程度の情報しか持っていないし、彼のプレースタイルやサッカー哲学などもよく知らない。
ただ、知っている限り、愛媛FCに所属した選手の中で、最も輝かしいサッカー人生を歩んできた選手であり、最もこの地方弱小チームに似つかわしくない選手であることは間違いない。

「こうじ!前!」
「こうじ!こうじ!」
「キープ、こうじキープ!」

練習試合の醍醐味でもある「選手の声」がピッチ内に響き、選手・観客ともに試合への集中を増していく。
途中でふと気づいたが、どうやら相手チームにも「こうじ」がいるらしく、こうじが渋滞を起こしていた。

この人が、またあの4年前の興奮をもたらしてくれるのではないかと思った。

元代表とはいえ、ピークを過ぎた37歳のベテラン選手1人の力で勝てるようになるほど、J2が甘くはないのは知っている。
ただこのワクワクする感覚が久々で、もしかしてもしかしたら…と期待をせずにはいられなかった。

期待というよりは、希望という言葉の方が近いかもしれない。
そうなってもらわないと困るという感情ではなく、明るい未来を想像してワクワクしている状態。
この「希望」こそ、サポーターの原動力であり、クラブチームがサポーターに示し続けなければいけないものなんじゃないかと思う。

コンディションのせいか、山瀬は前半早々に途中交代してしまったが、その後も真剣に練習試合を観戦した。
途中で気持ちの入ったプレーで存在感を放っていた背番号15番の選手の名前をスマホでチェックした。
丹羽詩音。最近の悩みは、「犬を飼うか、飼うまいか」だそうだ。

今年は何年かぶりにニンスタに行ってみようと思う。
多分、なんだかんだで今年も「中の下」の順位になるに違いない。
それでも今年はとてもワクワクするのである。

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