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【マイ・ミニマリズム〜第2断】ミニマリズムと資本主義は相反するのか?

【第1断】の「断捨離とミニマリズム」でも指摘した通り、ミニマリズムは節約術や貯蓄術ではなく、透徹した思想・美学でありシンプルな哲学そのものである。西洋的な視点におけるミニマリズムと芸術の関係性、さらに宗教においても日本の禅宗の思想との親和性は高い。
では、ミニマリズムと資本主義という一見相反する2つの関係性はどういうものなのだろうか?

資本主義とマルクス主義

資本主義は言うまでもなく18世紀のイギリス産業革命以来、会社という組織が資本によって構成された市場経済を確立し、アメリカ、西ヨーロッパ、日本が冷戦下においても牽引してきた経済体制である。

一方、カール・マルクス(1818年〜1883年)によって提唱された史的唯物論によるマルクス経済学という資本主義に対抗する経済・政治思想が席巻し世界を分断、そして衰退の一途を辿ったことはまだ記憶に新しい。

冷戦の崩壊以降、グローバル経済が急激に加速し、現代において一部の国を除き資本主義は一見もはや代わりようのない経済メカニズムであるようにも見える。

カール・マルクス

もちろんこの資本主義は、利潤の追求という企業中心の価値観によって大量生産大量消費を促進し、過剰な消費刺激、過剰な広告、過剰な生産の連鎖の末に、人間疎外、貧富の格差、地球環境への悪影響など多くの弊害を産み出してきたことは事実である。

日本型倹約系ミニマリストの登場

その中でミニマリズムは元来、芸術を中心に思想展開してきたわけだが、日本を中心とした倹約系ミニマリストの登場によって日本におけるそれは、大袈裟に言えば大量生産大量消費の資本主義との相克を生み出してきた。

あらためて検証すべきは、ミニマリズムは倹約を目的とした手法ではなく、物に対する美意識的価値や必要性を見極め、結果的に無駄な浪費をしないことであって、“ミニマリズム=日本型倹約系ミニマリストとして成立しない”ということである。

そこで私がミニマリズムと資本主義との関係ですぐさま想起したのが、ドイツの社会学者であるマックス・ヴェーバー(1864年〜1920年)である。

キリスト教が資本主義を加速?

私がヴェーバーを知ったのは学生時代の読書遍歴である。
すでにマルクス主義は影を潜め、世の中は掴みどころのないバブル景気に賑わい、外国車をカローラと呼んだり、台座の上で女性たちが下着が見えそうな服で踊り狂ったり、まさに日本中が狂乱の時代だった。
その頃の私はと言えば、バブル経済とは縁遠いライフスタイルで、他者と会うことが少なくアルバイトで得たお金を握りしめては古本屋に出かけ、気になる本を買い読み耽るという時代遅れのモラトリアム時代を楽しんでいた。
時間を持て余していた私は「資本論」を読むべきか、それに対抗し得る何かを読むべきかを模索していた。
そして、書店を徘徊する中で不意に出会ったのがマックス・ヴェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」である。
経済学や社会学の知識のなかった私は、ただ興味本位で読み進めたものの、その内容はあまりに深くしかもキリスト教、とりわけプロテスタントの教義や歴史も勉強しなければならないことを痛感した。
それでも、その名著が示す最も重要なことは、カルヴィニズムによる禁欲主義がエトス(倫理的価値感)を生み出し、その結果として資本主義の精神へと繋がっていく、という結論は、どこか私の中で資本主義発展の必然性を導いてくれたのだ。

マックス・ウェーバー

この禁欲主義による資本主義の発展とミニマリズムとの関係性は迂遠に思われることは仕方ない。
だが、私にとって倹約や節約を目的とするミニマリズムへの異様なる違和感は、ヴェーバーの理論に当てはめると奇妙な納得を生じさせる。
さらに言えば、マルクス主義とマルキストとの不一致性と同様、ミニマリズムとミニマリストは目的と結果とが混同し、しまいには〇〇系ミニマリストといった汎用に対する
危機感
すら覚えてしまうのだ。

ダンシャリアンとミニマリスト

ここであらためて定義づけしなければならないのは、ダンシャリアン(断捨離する人)とミニマリストが類似語ではないということだ。
私なりに定義すると、ダンシャリアンは整理整頓する者そのものであり決して物の所有を否定しない者である一方、ミニマリストは整理整頓をしたくないが故に物の所有を否定する者としよう。
一見類似しているように見える断捨離とミニマリズム、ダンシャリアンとミニマリストは、目的と結果、倹約と簡素という二元論の差異をあらためて理解いただきたい。

さらに乱暴に言えば、ダンシャリアンは物を買い、集め、溜めた結果、それを否定する行為と捉えると資本主義における模範生だが、ミニマリストは買うかどうか見極め、集めることを忌み嫌い、溜めることを拒否する以上、従来の資本主義とは相反する。

すなわちミニマリズムは、従来の経済システムに対して静かに反旗を翻す“脱資本主義への希望の糸口”である、と私は自らを激励するように主張したい。

【第2断】了

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