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【日向坂文庫#5】『ひなた』吉田修一(表紙 佐々木久美)

この本は、強いメッセージ性があるというのではなく、読者側が主題を見つけていくようなお話だ。読む人によって着目する点、受け取るものが異なると思う。

4人の視点で語られる1年間

有名ブランドの広報部門で働くレイ、レイの彼氏で叔父の経営するバーを手伝っている大学生の尚純、休日は劇団の練習に励む尚純の兄浩一、浩一の妻で雑誌編集者の桂子。

レイの春、尚純の春、桂子の春、浩一の春、レイの夏…というように、4人の視点で1年間が淡々と語られていく。

淡々とした語りの中にある様々な論点

淡々とした語りの中に、それぞれの読者が拾い上げるであろう論点が色々と含まれている。

仕事とは。家族のかたち。恋愛のあり方。家庭と仕事。

何が心に残ったか、4人のうちの誰に共感したか、読み終わってどのようなことを考えたか、この本を読んだ人と話してみたら面白そうだなと思う。

もちろん、どのような本も受け取り方に正解などないけれど、この本は特に読者側に主体性が求められている気がする。

女性と仕事

私は女性と仕事に着目し、桂子の葛藤が少しわかる気がした。

時代が変わってきているとは思いつつ、「女が働くには、特に結婚してる女が働くには、未だになんか理由がいる」という彼女の言葉は印象に残った。

最後の桂子と浩一の場面はすごく好きだ。結婚が、難しいことを考える必要のない自分の居場所と味方を得ることであるならば、それはとても素敵だと思う。

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