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【読書】『罪の余白』芦沢央【人の心理に注目】


今回紹介するのは、芦沢央さんのデビュー作である『罪の余白』です。映画化もされていて、ご存じの方も多いかもしれません。


芦沢央さんの作品は、これまで『許されようとは思いません』、『火のないところに煙は』、『悪いものが、来ませんように』を読んだことがありました。


いずれも、人の恐ろしさが描かれている作品です。何かぞわっとするものを感じるとともに、「世の中で一番怖いのは結局人間」というような諦めにも似た気持ちを抱きつつ、でも先が気になってすぐに読んでしまうというような、そんな印象でした。


今回の『罪の余白』もまさにそのような作品でした。人の嫌なところを目の当たりにして悲しい気持ちになりつつ、一方でページを捲る手が止まりませんでした。


※この本は、kindle unlimited で読むことが可能です(令和4年1月30日現在)。


高校生の加奈の転落死


大学で心理学を教える安藤は、妻を病気で亡くしてから、娘の加奈と二人で生きてきました。


ところが、加奈が高校で転落死してしまいます。魂が抜けたような状態になった安藤は、人の気持ちがわからない、空気が読めないことに悩む同僚の早苗の支えにより、何とか日々を生き延びていく中で、「加奈の思いを知らなければ」と加奈の持ち物を調べ始めます。


安藤はいじめの事実を知り動き出しますが、いじめの首謀者である咲も、仲間の真帆を従え、いじめの事実が発覚しないよう、頭を働かせていました。


人の心理に注目


妻を亡くしてから8年間、加奈の子育てを何よりも優先し、加奈の話を聞こうと努めてきた安藤。人の冗談や嘘が見抜けず、自身も冗談や嘘が言えない、とにかくまっすぐな早苗。優しい子で、父に心配をかけたくないと強く思う加奈。芸能界に入りたいが母に反対され、不満を抱えている美少女、咲。スクールカーストを気にし、咲と仲良しでいたくて彼女の機嫌を伺い続ける真帆。


トロッコ問題も登場するなど、人の心理をメインに描いた作品で、一人ひとりの気持ちや性格、その背景について考えながら読みました。


咲がなぜ、こんなにひどいことをしたのだろうというのが一番気になる点でした。咲は美少女で成績も良く、中学校時代には、クラスで唯一教育実習生いじめに加わらなかったというエピソードも出てきます。それなのになぜ、加奈をあれほどまでに追い詰めるような行動を取ったのでしょうか。


母と上手くいっていなかったから、加奈がうらやましかったのか。芸能界に入れないという不満のはけ口が、たまたま加奈に向いたのか。加奈が優しさゆえに誰にも相談できなかったことで、エスカレートしたのか。そもそもいじめに理由なんてないのではないか。
ぐるぐると、咲について思いを巡らせました。


人はここまで狡猾になれるのだと、胸が痛みました。高校生という不安定な時期だからというのもあったのだろうか、なぜこうなってしまったのだろうと、読み終わった後も考え続けています。



自身が落ち込んでいるという場合には、読み進めるのが少し辛いかもしれませんが、そうでないときに読む一冊として、人の心理に迫る本書はおすすめです。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。



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