喘息プログラマー(IT業界サバイバル3 〜敗者復活戦〜 前編)
前回までのあらすじ
喘息持ちで人生諦めていた私が一発逆転で入り込んだ世界はブラックの代名詞であるSES業界でした。6年間、地獄の地下労働生活に耐えた私は光を求めてSESの生活から抜け出します。
自社開発の門を叩き、キーマンがいる派閥にうまく入ることに成功した私は喘息という爆弾を背負いながらも怒濤の勢いで仕事をこなしていきます。
すべてが順風満帆にいっていました。
そのはずでした。
がしかし、運命のいたずらか。
神は私に試練を与えました。
まさかの社内クーデターの勃発。
外部から高火力の技術者が次々と送り込まれ、風前の灯火となった戦場から私は逃げ出しベンチャーの世界へ。
ところが今度は技術の壁に阻まれ、路頭に迷った私は再びSESの世界へ足を踏み入れることとなったのです。
プロローグ 負けてから始まる
遡ること時は2013年11月某日。
雑居ビルにある一室のドアノブを回そうとしたとき、
「またこれか」
10年ぶりに蘇る感覚でした。
前職のベンチャー企業で居場所が無くなり、夜逃げ同然で逃げ出した私がたどり着いた先は大大だーいきらーいなSESの世界でした。
再びSESに戻るなんて1ミリも思っていなかったのですが、食べていくため苦渋の決断でした。
自分はこれしかできないから。
零細SES会社はたいてい雑居ビルの小さな部屋を借りており、中は狭く、社員数分の机と椅子はありません。どうせ外に出るわけですからそんなもん必要ないのです。
待機するための数名が座るスペースがあれば十分です。
一時は自社開発で重要なパートを任され、期末賞与をがっぽがっぽと貰って、鼻息荒い生活をしていたのに・・
人生なにがあるか分かりません。私の生活は一変しました。
世の中にSES会社はなんぼでもあります。未経験でも入れます。
しかしながらそんな会社は間違いなくブラックと言ってよいでしょう。
そのブラックをかわすには紹介が一番です。生きていくには、なんだかんだ言って人脈が重要なわけです。
私はツテを頼り、再びSESの沼に足を踏み入れたというわけです。
「おはようございます」
ドアを開けると同時に元気よくボスに挨拶しました。
(やっぱり部屋は狭かった)
「おーおー、待ってたよ。コーヒーでも飲みに行こうか」
ボスは100万ドルの笑顔で迎えてくれました。
完璧な笑顔です。
SESで営業をやっていくために絶対的に必要なスキル、それはどんな状態であっても笑顔を作れることです。これができない営業はSESの世界では生きていけません。
ずっこけデビュー戦
意外や意外、最初は社内勤務でした。
あり得ません、SESは現場ガチャがあるはずなのに。
理由は単純で、多少英語の経験があるということで海外の案件プロジェクトに絡むことになったのです。小さい会社だったんですけどボスの人脈が広くていろいろな仕事を扱っていたというわけです。
ただ、ぶっちゃけ毎日苦痛でした。
狭い部屋でボスと英語堪能なリーダーといつも3人で、本職の作業以外に電話取りから掃除、LAN配線の工事までやらされました。
最悪だったのが共同トイレの便器が1個しかなかったんです。地獄です。
早く俺を外に出してくれ~
毎日そう願っていました。
3ヶ月後、あっけなくプロジェクトが頓挫し(よくあること)
ようやく現場ガチャかと思ったら、そのガチャが回らなかったんです。
私の次の仕事(飛ばされる現場)は、古き戦友との繋がりによってガチャを回す必要もなく、あっという間に決まりました。
人脈というものは本当に強い。
そして業界は狭い。
共にデスマーチを乗り越えた戦友と、もう一度戦場へ向かうことになろうとは。
いったい誰が予想したでしょうか。
戦友ですから面接なんてものは無く、「明日から来て欲しい」と言われました。
仕事ってそんなもんです。人脈って凄いんです。
参画 再び戦場へ
IDカードを渡されました。もう逃げられません。
過去に共にデスマーチを戦った戦友のKさんが偉い人になっており、みなさん温かく迎えてくれました。
そしてめでたく初日から残業となりました。
戦友なので容赦ありません(涙)
とんでもなく広いフロア。
ざっと200人は居るでしょう。
※でもトイレの便器は4つしかなかった。朝は渋滞、再び地獄。
フロア内に入るときはドア横の暗証番号(もちろん定期的に変わる)を押してからIDカードをかざす。
パートナー会社ごとに島が区切られており、プリンターやコピー機を使うときもIDカードが必要。会議室に入るときも同じ。
四隅には自動販売機。もちろん社員価格、安い。
電話は4つの机中央に1つ。うん、まさにこれぞSES。
「きたぞー、久しぶりの現場だ」
思わずつぶやいていました。
この時は外に出られた嬉しさではしゃいでおり、先のことなど全く考えておらず、まさかもう一度火事場を見ることになるとは夢にも思わなかったのです。
喉元過ぎれば熱さを忘れるとはうまく言ったもので、まさにそれでした。
レスキューミッション
2ヶ月後
私が所属するKさん率いる部隊4名は別の協力会社を援護すべく、200人が居るフロアをあとにしました。
SESの世界では複数の協力会社が力を合わせてひとつの大きなプロジェクトを進めることがよくあります。まったく知らない別の会社の人たちと協力し、大きな仕事をこなしていくのです。
常に知らない人と仕事をすることから積極的にコミュニケーションを取る人と、傭兵のように契約期間内だけ必要最低限の会話をする人と大きく別れます。
私は前者の方で積極的に飲み会も参加しますし、ランチも誘われたらまず断りません。SESの世界では横の繋がりが非常に重要であり、何かあったときに助けてもらったり助けたりとお互い様なわけです。
季節は冬でした。
援護に向かった現場は電車で30分ほど行ったところで、想像以上に酷い状態で、皆疲弊していました。
小さな雑居ビルの一室で9名のIT戦士が戦っていました。
その殆どが若き戦士でした。
何よりも驚いたのが、トイレが男女共同でした。
「とんでもない所に来てしまった」
その頃から部屋の広さよりもトイレの数を重要視するようになったことは言うまでもありません。
冬の間、私は若きIT戦士たちと絆を深めました。
リーダー格の青年は月の稼働が400時間を超えていました。
まさかこの若さで神の領域に・・
※神の領域=月の労働時間が400時間以上
その話を聞いたとき、IT業界の闇を再び見ました。
歴史は繰り返す。
自分が若い時に経験した地獄は継承されていたのです。
未だにデスマーチがしぶとく残っていることに怒りを覚えました。
業界を変えなければならない
そんなことを思っている最中、ある日ひとりの若者が無断欠勤しました。
その若者は次の日も、その次の日も出社しませんでした。
脱走
なぜIT業界は変わらないのでしょうか。
そんなんだから7Kと言われて学生達に煙たがられるのです。
スーツ着て、ノートPC持って、スタバでキー叩いて、一見イケているように見えるけど、ただのIT土方じゃないですか。
昔に比べてましになったとはいえ、未だにIT業界はブラックxブラックと言われています。
月400時間なんて仕事させる現場は淘汰されるべきなんです。
明けない夜はない
貴重な若い力を犠牲とし、レスキューミッションは完了しました。
私たち少数部隊は200人が居るでっかいフロアに戻ることになりました。
その後、プロジェクトは1次フェーズを終了し2次フェーズに突入。
私は1次フェーズまでの契約ということで現場を退場となったのです。
自社に戻り、現場ガチャが回り、私はひとり孤独に新たな現場に飛ばされました。
そこは平和な現場でしたが、ドキュメント書きばかりでつまらなかった。
おまけに1人作業なので会話する人も居なくて毎日睡魔との戦いでした。
そんな中、運命のいたずらとでも言いましょうか。
私の知らないところで強大な権力が動き、再び私はKさんが居る2次フェーズの現場へ召還されることになるのです。