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第2話 出汁文化を育んだ山国日本:    なぜ山は高くなるのか?

ジオリブ研究所所長、ジオ・アクティビストの巽です。

シリーズの第2話は、和食出汁文化を育んだ軟水を生み出す「山地の形成」がテーマです。なぜ日本列島では山が高くなるのか?

さあ、ジオリブしましょ!

火山が造る山地

日本と同じように島国のイギリス。その最高峰は「ザ・ベン」と呼ばれるスコットランドのベン・ネビス山です。しかしその標高はわすか1344m。一方で日本列島には、イギリス最高峰を凌ぐ高さの峰が連なる「山地」あるいは山脈が数多くあります。なだらかな中国山地では最高峰は1300mですが、北アルプスとも称される飛騨山脈には10座の3000m峰が連なっています。

ここで図1を見ると、日本列島の山地には活火山が多いことに気づきます。例えば飛騨山脈は「乗鞍火山帯」、奥羽山脈や出羽山地・越後山脈はそれぞれ「那須火山帯」と「鳥海火山帯」と一致します。火山帯をなすのは、第四紀と呼ばれる最も新しい地質時代(260万年前以降)に活動した火山です。このように山地と火山帯が重なっているということは、山地の形成と火山活動との間に密接な関連があることを示しています。

図2.1_活火山・山地・プレート境界

日本の最高峰富士山は、ご存知の通りバリバリの活火山です。そしてこの山はほぼ海抜0mから聳え立つ独立峰です。だからこそ、私たちはその雄大な姿に圧倒されるのでしょう。一方で多くの日本の火山は、山地の上にチョコンと乗っているにすぎません。つまり、山地そのものは最近の火山活動で造られたのではなく、もっと昔の地層や岩石が別の要因で盛り上がったものなのです。でも、もともと山地だった場所を狙って地下深くからマグマが上がってくると考えるのはあまりにご都合主義でしょう。

火山はマグマが地表に噴出して造られるのですが、実は地表に達するマグマはほんの一部で、大部分は噴火することなく地下で冷え固まってしまうのです。こうして火山の地下できる岩石が、国会議事堂やお城の石垣に使われている「花崗岩」です。いわば花崗岩は、「マグマ溜りの化石」なのです。

図1に示すように、日本列島周辺には4つのプレートがひしめき合っています。最近の研究によってこのプレートの配置や動きは約300万年前に定まったことが分かっています。つまり、太平洋プレートやフィリピン海プレートが沈み込みこむことで、長い間ほぼ現在の火山帯と同じ場所で火山活動が繰り返されてきたのです。その結果、火山帯の地下では花崗岩がどんどん作られ、このことで地球の表面をなす「地殻」と呼ばれるが層が厚くなったのです。

このような花崗岩を主体とする地殻は、地球内部の大半を占める重い「マントル」の上に浮かんでいます(図2)。浮く、という表現に違和感をお持ちになるかもしれませんが、地球内部は温度が高く、固体のマントルも「地球時間」ではまるで液体のように流れます。その結果、火山活動で花崗岩が作られて厚くなった地殻は、周囲に比べて浮き上がって山地となるのです(図2)。

図2.2_山地形成メカニズムのコピー

プレートの圧縮が造る山地

日本は、図1に示したように111座の活火山(1万年前〜現在までに活動した火山)が密集する世界一の「火山大国」であると同時に、「地震大国」でもあります。地球上で起きるマグニチュード5以上の地震の約10%がこの国で発生するのです。この四半世紀でも、阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、大阪府北部地震などの災禍に見舞われてきました。

これらの地震を引き起こすのも、火山と同じく、海溝から地球深部へと潜り込む海洋プレートです。海溝近傍では、このプレートの沈み込みによって陸側のプレートが引きずりこまれるように変形し、それが限界を超えると跳ね上がります。これが、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)や南海トラフ巨大地震などの「海溝型地震」を引き起こすメカニズムです。

一方で、太平洋プレートやフィリピン海プレートが日本列島を強烈に押すことで陸域の地盤にも歪みが蓄積します。やがて耐えきれなくなった地盤では破壊が起きて「断層」が生じるのです。このような断層を震源とするのが、兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)や首都直下地震などの内陸型(直下型)地震なのです。

図1を見れば分かるように、東北〜中部地方の山地は、太平洋プレートの運動方向にほぼ垂直に並んでいます。そしてこれらの山地周辺の地質を調べると、山地と隣接する盆地の境には「逆断層」が走っているのです。つまり、これらの山地の隆起は、プレート運動による圧縮力によって引き起こされる断層運動と地震活動の結果なのです(図2)。今ここでは「太平洋プレートによる圧縮」と言いましたが、実は「日本海溝が西へと移動して日本列島を圧縮している」というのが正確な表現です。このことはまたいずれお話ししますね。

変動帯日本列島からの試練と恩恵

火山や地震が集中する、世界一の「変動帯」日本列島。そこに暮らす私たちは、火山・地震災害という試練を幾度となく与えられてきました。そしてこれからも、この試練と向き合っていかねばなりません。しかしその一方で、世界に誇る和食の真髄をなす「出汁文化」、そしてそれを育んだ「軟水」は、火山活動や地震を伴う地殻変動の結果、この国が山国になったことでもたらされているのです。

だから、災害のことは諦めて、または自分だけは大丈夫などと呑気に構えて、一方では日本列島からの恩恵である和食を楽しむだけでは、虫が良すぎるのではないでしょうか? 和食文化を継承してさらに発展させると同時に、不可避の試練に対しても覚悟を持って対峙することが「変動帯の民」としての使命だと思います。

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