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第7話 サブダクションファクトリー:巨大なリサイクルシステム

ジオリブ研究所所長、ジオ・アクティビストの巽です。

日本列島のような「沈み込み帯」は、約40億年前にプレートテクトニクスが作動し始めて以来、巨大な工場「サブダクションファクトリー」として大陸地殻という製品を作り続けてきた。当然ながらこの工場からも廃棄物が出てくる。サブファク廃棄物には次の3種類がある:(1) 大陸地殻の元となるマグマを作るためにプレート(海洋地殻)から水を絞り出した残りカス、(2) 同様にプレートに引きずり込まれる堆積物の残りカス、それに(3) 玄武岩質のマグマから安山岩質の大陸地殻を作る際にできる残渣「反大陸」である。

サブファク廃棄物の行方

3種類のサブファク廃棄物は、一体どこへ運ばれて行くのだろうか? このことを考えるには、廃棄物と周囲のマントルとの密度関係が重要だ。なぜならば、周りより重ければ、廃棄物はどんどん落下し、遂にはマントルの底に溜まることになる。海洋地殻と堆積物については、高圧実験によって、深さ670kmの上部・下部マントル境界辺りでマントルより軽くなることが判ってきた(図1)。ただ、プレート本体が最終的にはマントルの底まで落下する運命にあるので、これらの廃棄物もプレートと一緒に下部マントルへと持ち込まれる可能性がある。すると800キロメートルより深いところでは、また周囲より重くなり、結局マントルの底まで運ばれるのだ。

2_密度プロファイルのコピー

一方で反大陸に対する高圧実験結果は、ようやく数年前に論文を出すことができた。この物質では、圧力を加えるといろんな鉱物が出現するので、解析に手間取ってしまった。しかし苦労した甲斐があった。他の廃棄物と違って反大陸はどの深さでも周囲のマントルより重く、一旦大陸地殻から剥がれ落ちると、真っ逆さまにマントルの底へと向かうのである(図1)。

結局、サブファクの廃棄物は地球深部、マントルの底まで運ばれる。でも、もしそれだけなら、製品を作りながらゴミは目につかない場所へ捨てている不法投棄だ。地球って意外にも無責任なのだろうか?

そんな時、あることを思い出した。それは、マントルの深部、おそらく核との境界付近に起源(熱源という意味で「ホットスポット」と呼ばれる)を持つハワイ諸島や南太平洋の島々のマグマの組成に基づいて調べられたマントルの組成だった。それによると、隕石と似た主要なマントル成分、マントル最上部を占める成分の他に、3種類の「特殊な成分」が存在している(図2)。3種類のサブファク廃棄物と3種類の特殊マントル成分。これは偶然の一致なのだろうか? それとも何か関連があるのだろうか? 

3_マントル成分のコピー

サブファク廃棄物については、実験結果に基づいてその化学組成を知ることができる。それを用いて、例えば87Rbが87Srへ放射崩壊して、時間とともに変わる87Sr/86Srの変化を求める。このようなシミュレーションを行うと、3つの特殊マントル成分は、サブファク廃棄物と、その上昇途中にある主要マントル成分が混じり合ったものであることが判った(図2)。図に示してある年代、例えば反大陸物質についての数字は、35億年前から現在までという「熟成期間」を示している。

僕はちょっとホッとした。地球はやっぱりエコで、サブファク廃棄物をしっかりとリサイクルして再利用していたのである(図3)。サブファクは、例えば日本列島で火山活動によって大陸地殻を作り、マントルの奥底で廃棄物をじっくりと熟成して、はるばる太平洋の中のホットスポット工場へと運んでリサイクルしているのだ。なんと壮大かつ配慮深い営みなのだろうか!

3_サブファク のコピー


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