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【読書日記】『仕事文脈』vol.22特集「NO!論破!」「通勤は続く」

『仕事文脈』2023年,vol.22,タバブックス,131p.,1,000円.


毎号楽しみにするようになった雑誌『仕事文脈』。今回の特集は「NO!論破!」ということで,雑誌のタイトルとはあまり関係なさそうだが,もう一つの特集が「通勤は続く」ということで安心する。こちらでも,特集の目次は付けるが,連載の目次はやめておいた。

特集1 NO!論破!
 わたしのミクロな平和活動:碇雪恵
 ひろゆきとブルシット的虚無:杉田俊介
 つながりと感情が武器化される時代に「論破」「冷笑」憎悪から距離を取る:礦波亜希
 Twitterから離れてみる
  情報や目にしているものがある時から固定化していた:すんみ
  差別発言でツイートを拡散するユーザーを手放せない仕組みに疲労:篠原諄也
 座談会「右傾化した父を持っている」について問い続ける
 小さな差別を聞き流さないことから『ヘイトをとめるレッスン』読書会
 「思想が強い」と冷笑する前に:竹田ダニエル
 「論破」はどこからきてどこへ行くのか ~世界NO論破~
特集2 通勤は続く
 通勤の破壊と創造:丹野未雪
 空白のビルボードを見つめて:小林美香
 浅草橋・天使の詩:オルタナ旧市街
 アンケート「通勤中の過ごし方」
 インタビュー 通勤がなくなった

このタイミングで論破といえばやはり「ひろゆき」。特集の冒頭の文章「わたしのミクロな平和活動」は論破と真正面から向き合うというものではないが,著者のいうミクロな平和運動とはZINE作りであり,「ZINE作りは,論破カルチャーに対抗するひとつの手段!」と結論付ける。そう,ひろゆきについて私はあまり知らないが,彼は書籍も多く書いているようだが,基本的にはTwitterやYouTubeという短い書き言葉と,話し言葉での発信が特徴。それに対して,短くて基本的に自費出版的で発行が早い紙媒体であるZINEによる発信がほどよい時間の速度と文章の長さという特徴が,論破カルチャーとは相容れないものとして語られる。
ひろゆきに対する批判はいろんなところで目にし,耳にしていたので,この特集から新たに学ぶことは多くはなかったが,Twitterから離れてみるという試みや,座談会,そして韓国本の翻訳である『ヘイトをとめるレッスン』という著書の紹介という,この特集の後半から学ぶことは多かった。
そして,個人的には2つ目の特集である通勤の話が面白かった。私自身,大学入学時から2年間都心を経由する長時間通学というのを経験し,その後もさまざまな時間,経路の通学・通勤を経験してきた。入学時の長時間通学は辛いものだったが,それを何とか楽しみに変えて,音楽を聴く,読書をする,乗り換えを増やして鉄道に詳しくなったり,と自分なりにやむを得ない電車移動をポジティブに捉えるようになった。今回のこの雑誌における特集は,やはりコロナ禍でリモートワークがある程度進み,これまで当たり前に行っていた通勤という行為を考え直す機会になったということだ。こちらのアンケートやインタビューも興味深い。私がアルバイト勤務する会社でも,月に3,4回は出社するようにしているが,私が乗る通勤電車はコロナ前と変わらない水準まで混雑度が回復している。リモートワークを経験し,通勤の無意味さ(そのなかでも読書など意味を持たそうと努力する人は一定数いる)を知ったにもかかわらず,また多くの人が通勤に戻ってしまっているというこの現状。人々はどういう思いで混雑電車に揺られているのだろうか。
本号の連載記事も面白かったです。

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