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便利屋修行1年生 ⒛謁見命令 連載恋愛小説
血は争えないかー、が伯母の第一声だった。
「探偵事務所でしょ?キケンな男ってことじゃない?あんたのお父さんもモトクロスのレーサーだったわけだし」
しばらく考えてからやっとふに落ちた綾の隣で、一拍早く息がもれた気配がした。顔には出さないが、天然家系だと断定されたにちがいない。
これだけは言っておきたいと真剣な眼差しの崎子に、空気がピリリと引き締まる。
「ウチのあや、想像を絶するモテっぷりだから。そらエゲツないよー?顔も中身もとびきりかわいいうえに、無邪気かつアンニュイ。男はたまらんらしい」
頭を抱えたくなった。
沢口がちらりとこちらを見たので、綾は目だけで必死に否定する。
実像とは似ても似つかぬ人物について、伯母は嬉々として演説をぶつ。
「手が届きそうで届かない、謎めいたオンナなわけ。なんか掻き立てられるんじゃない?知らんけど」
おにーさんもそのクチか、あはは、とずいぶんゴキゲンだ。
***
「崎ちゃん、あのう…」
「なによ。姪っ子の自慢しちゃ悪い?」
「そういうことじゃなく…」
「大学の時なんか、百人斬り…」
たまらず崎子の口を両手で押さえにかかるが俊敏によけられ、独演会は中断できずじまい。
「変なワード出さないでくれる?」
「どこが変なわけ?それくらい断りまくってたじゃん」
カウンセリングに通っていた心療内科医にアプローチされ、二重のトラウマになったこと。綾の黒歴史を、崎子はいとも簡単に暴露してしまう。
「そういうわけで臆病になってるから、一筋縄じゃあいかないよー?」
フフンと胸を張っている彼女は、マウントをとっているつもりらしい。
笑いをこらえるのに必死だろうなあと隣に目をやると、なぜか沢口は神妙な面持ちで。浮かない表情にもとれた。
なにを考えているのか、うかがい知れない。
ドン引きしてやっぱりやめますと言ったって、おかしくはない。
綾と崎子が固唾をのんでいるあいだ、たっぷりと時間をとってから、彼は口を開く。
「覚悟はできてます」
たった一言で、場の空気を支配した。
***
手のひら返しでおとなしくなった崎子が、手料理でもてなしてくれる。
「なんかなじみのある味ですね」
「あ、わかった?私のレバートリー、9割崎ちゃん直伝なんだ」
「はくハハですから」
「ありがたや」
綾がふざけて崎子を拝んでいると、彼女の人生に崎子さんがいてくれてよかったです、と思いもよらないセリフが沢口から飛び出す。
おばさん、と呼ばなかったのも高ポイントだったのだろうか。
全部たいらげろ、とけっこうな量を強要する崎子が、興に乗って日本酒まで持ち出したのには、さすがに驚いた。
あれは崎子専用で、今まで他人とシェアするのを一度たりとも見たことはなかった。
(つづく)
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