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便利屋修行1年生 ㉑うかつな彼女 連載恋愛小説

彼氏できたんなら連れてこい、と有無を言わさぬ命が下ったのは、3日前。
「キャラが濃いとは聞いてたけど」
悩みごとをふっとばすパワーのある彼女に、何人の子供たちが救われたことか。顔を見るだけでホッとできる、稀有けうな存在だ。

初対面の人間に品定めされる決して気分が良いとはいえない状況を、沢口はおもしろがってくれた。
「おもしろくない情報もあったな」
「なんのことでしょう?」
とぼけても無意味だとは、わかっている。

「ほら、私剣道やってたから、崎ちゃん勘違いしちゃって」
「ふーん」
ヘソを曲げているのが意外すぎて、綾は冷や汗をかく。

「鬼畜ドクターに食われかけたとかなんとか」
崎子の言いかた、なんとかならんのか。
「ちなみに、その人と沢口さん似てます」
見てくれではなく、見透かす感じや頭の回転の速さが似通っている。
ほめられている気がしないと指摘された。
「大丈夫です。別次元なんで」

***

キスの最中、ときどきイラッとすると告げられる。
「あ…ヘタすぎて?」
「気持ちよすぎて」
平然と言うので、本気か冗談か、てんで区別がつかない。

「ええと、それは経験どうこうっていうより、相性?のような…」
崎子と同様、変なことを口走ったと気づいたときには、もう遅かった。
相性の良し悪しはなにでわかるのかと、間髪を入れず詰問きつもんされる。
「…本能とか?」

弱みをさらした相手につけ込まれ心が砕け散った記憶は、頭からそうそう消えることはないと思っていた。
「本上綾ガチ勢の崎子さん、かわいかったな」
いつくしむようなその目と声に、綾は泣きそうになった。

(つづく)

# 私の作品紹介 #賑やかし帯 #恋愛小説が好き







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