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便利屋修行1年生 ⒒彼女代行 連載恋愛小説

とっておきのワンピースがある。
着用すると、もれなくナンパもしくは告白される最強衣装。
裾が二重レースになっていて、だれでも清楚系に化けられる。
伯母が見立ててくれたもので、彼女のパワーが注入されたのか、その一着は綾のクローゼットでひときわ光を放っている。

披露すると皆にも好評だった。ただひとりを除いては。
「…開運ツボ、買わされるタイプ?」
皮肉しか言えんのか、この男は。

見合いの場にニセ彼女を連れていくという、なかなかに挑戦的な依頼人。
清潔感があって愛想もよく、わざわざ便利屋を雇う必要はなさそうに見える。
想像通りに仲人は激高し、二度と世話しないと言い放って帰った。

***

それにしても、お相手が到着する前にカタがついて、やれやれだ。
「あんなんで、よかったんですか」
「説得力ありましたよ、本上さん。ありがとう」
心からほっとした表情の彼。

こちらは申し訳なさと居心地の悪さで、キョドりぎみになってしまった。
「勝気な感じ出てました」
「はは、やりすぎました?」
とある場面で、剣道の試合モードで目にグッと力を込めてみたのだった。

今まで女の人を好きになったことがない。さらっとカミングアウトされる。
「そんなこんなで、見合いの強要は二重にキツくて」
「わかってもらえない辛さって、心がえぐられるっていうか…あ、わかったようなこと言って、すみません」
本上さんなら、付き合ってたかもしれないな、と身に余るおほめの言葉を頂く。

「そんな、言いすぎですよ~」
「社交辞令だ。はしゃぐな」
わざわざインカムで言わなくても。沢口を無視し、綾は依頼人と話し込む。「本上。撤収」
ダイレクトに呼ばれて、耳がしびれたかと思った。

***

にやけ顔を元に戻せない綾に対し、真逆のオーラをまとう沢口は、事務所とは逆方向へ車を走らせる。
「あのー、撤収なんじゃ…」

緑地公園の駐車場に入る。日が落ちた冬の公園は、人影もなく寒々しい。
「なんか飲み物買ってきますね」
ちょっとこわくなって脱出を試みるも、腕をつかまれ阻止された。

「脱いで」
聞き間違いかと表情をうかがう。
機嫌を損ねるとすごみを増す、線の鋭い顔立ち。
「なんでですか。意味わからない」
「その服抜きで告白するからだろ」
「はあ…」
れたように手が伸びてきて、胸もとのリボンをほどきにかかる。

「ま…待って。すき」
「は?」
「つきあってください」
沢口がみごとに固まったので、綾はもの珍しさのあまり笑ってしまった。
ついでに、そばにあった唇にちゅっとふれてみる。

「なにそれ」
「先手必勝?」
どうも隙を見せられると、考える前に体が動いてしまう。
物心つく前から、習っていた武道。
時間がかかったとはいえ、家庭崩壊でボロボロになった心身が復活したのは、あの鍛錬のおかげだと思う。

こうして、水色ワンピの連勝記録は更新され、仕返しみたいな沢口のキスは、いっこうに終わらなかった。

(つづく)

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