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小鳥カフェ トリコヤ ⒘フライング禁断症状 連載恋愛小説 

「今度会えるの、いつか知ってる?」
いつのまにか背中から抱えこまれていて、かの子はびくりと震える。
「たしか2カ月後…」
「ハイ、アウト。1カ月半でした」
こまかいなあ、一緒じゃん、と思いながら向き合うと、待ち構えていたように口づけられた。

「専属歌姫以外、視界に入ってこない」
「ふーん?視力悪い?」
揺らがない視線に、照れが勝ってしまう。
「唯一無二の美声に、太刀打ちできる人間がいると思う?」
出た。大げさ語録。
「しかも、最近磨きをかけてきてるし」

リアルで会うようになった文ちゃんの手ほどきを受け、カラオケ秘密特訓を決行していた。
といっても、技術を身につけるためというよりは、歌の基礎体力をつけるのが目的だ。
変なクセはつけないほうがいいと、彼女も言っていた。
「リズム感あるんだって、私。知らなかった」
周知の事実とばかりに創史そうしは反応せず、黙って額を合わせてくる。

***

「トリコヤにケータリングあればなー」
「どハマりしてるね、オムライス」
「オムライスってだけじゃない」
「そう?」
出発が午後なら、午前中にメカちゃん(オカメインコ)とふれあうのはどうかと提案してみる。
癒やしと元気のチャージとして。
「それもいいけど」

一緒にいられるのは、あと数時間。
寂しいと泣いて甘えるキャラでもない。
認められ求められている彼を、応援したい。
「好きなことを仕事にできるって、イイよね」
ジャンルはちがえど、そこは大いに共感できる。

***

「モーニングコールとおやすみコールは、厳守で」
「ふふ。了解です」
ここにきて彼の性癖が効いてくるとは。
「創史さん、おはよ」
リハーサルめかして彼の耳に唇を寄せささやいてみたが、どうにも反応が薄い。

「あーそれはあとで」
「なんで?」
今からダメ押しの栄養補給をするらしい。
ギリまで粘る主義を忘れたのかと、喉に吸いつかれた。
「今わかったんだ?」
その目をひとめ見ただけで、理性を殺しにかかっているとかの子は悟る。

「あ…でも、ちょっとでも睡眠とったほうが…」
「かの子さんとふけってると、無心になれる」
必須の余白時間だと説き伏せられた。

(つづく)



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