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便利屋修行1年生 ⒓屋上BBQ 連載恋愛小説

一晩寝て起きたら、言葉にできないほどの後悔が襲ってきた。
勢いで言うのとちがい、今回は切り出すのに相当の勇気が必要だった。
「撤回させてください。交際申し込み」
調査報告書を作成中だったのか、沢口がPCから顔を上げる。

「なんで?」
「よく考えたら、無理でした。大事なもの作るの、こわいっていうか…うまく説明できないです。勝手なこと言って、ごめんなさい!」

彼は綾から目をそらし、なにごともなかったかのように作業に戻った。
「そっちがその気なら、こっちは好きにさせてもらう」
放っておいても女の人が寄ってきそうな、このビジュアルと存在感。
その中から適当に選ぶということか。
「わかりました。それでお願いします」

***

買い物代行の中身は、いたってシンプル。
リストに添って買い物をし、自宅へ届ける。
冷蔵庫内を整理したり、賞味期限切れの食品を処分したりといったこまかい作業は、気がついたときにできる範囲でやっている。

「綾ちゃんのコミュ力、無双~!おもしろすぎる」と秋葉。
話が盛り上がりすぎて、次の約束に遅れそうになること多々アリ。
そして、おせんべいから洗濯洗剤まで、もらいものてんこ盛り。
料金を頂いているのに品物でお礼をしようとするお客さんが、思いのほか多いのだ。

「お肉もらっちゃいました」
テンション爆上がりの男性陣。
「所長。これはアレですね」
「アレだな」
秋葉と所長が漫才コンビのごとく、うなずきあう。

***

お祭り騒ぎの面々に囲まれているだけで、楽しくなってくる。
横から手が伸びてきて、綾は新しい缶を持たされた。
レモン味のアルコールフリー飲料だ。
買い物代行の相方は秋葉なので、沢口と話すのは久しぶりだった。

「飲めないヤツは、飲むな」
酒豪ぞろいの宴会に水を差すのもどうかと無理してみたが、ギブしかかっていたところだった。

隣に座った沢口の食いっぷりに、目を奪われる。
自分がもし食堂のおばちゃんだったら、ループでおかわりを足してあげたくなるだろうな。
「なに?」
「いつまでもながめてられるなーと思って。肉と映えますねえ」
「意味不明だけど」

さすがの便利屋集団。片づけの手際の良いこと。
「またやりたいです。屋上バーベキュー」
「よっしゃ、任せろ。次は松阪牛、おっちゃんが食わしたる」
エセ関西弁の所長も、ゴキゲンだ。

***

解散も早く、残ったのは今月の鍵当番の綾と、本日の空き缶回収係の沢口だけになった。
寒空のバーベキューで、全身に煙を浴びてしまった。
燻製くんせいにハマっている所長のおかげで、桜チップの匂いまでプラスされている。

「臭います?」
いぶされ具合が気になって、綾はコートを広げて沢口に確認する。
すると、どういうわけか腰に腕をまわされた。
今日の焼き肉ダレに、ニンニクはどれくらい入っていたんだろう。
まさか首筋の匂いを嗅がれるとは思わず、軽いパニックに。

耳を食われたのを思い出し逃げ道を探そうとするも、すでに身動きがとれない。沢口は綾の喉に口をつけ、ぺろりとなめた。
「好きにさせてもらうって、言ったはずだけど」
ほろ酔いのせいか、クラクラした。

彼氏ではない人と、真夜中のキス。
食べたお肉の味もなにもかも、風にあおられ、かき消される。
「なんかズルイ」
相手は顔色ひとつ変えないところが、また悔しかった。

(つづく)

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