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Re:逃走癖女神 ⒊ギラギラの新人 連載恋愛小説

午前の仕事が長引いただとか、彼は言い訳を口にしなかった。
都よりよほど地位の高い重忠に対しても同じトーンで謝り、変にへつらうこともなかった。

都が高校時代に出した詩集の担当編集だったのが、住吉紗英だ。
母がTV局員と駆け落ち&蒸発するというベタなことをやらかしたので、それ以来、紗英は保護者がわりになってくれている。

性格を知りつくされている彼女に誘導され、都は去年初めて小説を書いた。
それを重忠が気に入り、いつのまにか企画を通し、アニメ化が決まったのだった。
預かり知らぬところでものごとが進んでゆく、なじみのありすぎる既視感。

***

そして、その作品に主演として抜擢ばってきされたのが、目の前にいる園田朔久さく
脚本も固まっていない段階でキャストが決まっているのは、すでに小説が下地としてあることと、重忠の意向によるところが大きいそうだ。

段階を踏んで制作するより各部門を同時進行で進めたほうが、プロモーションに時間と手間、予算をかけられるとか。
たたでさえタイトなスケジュールをさらに締めつける禁じ手を、実行に移せるだけの実績と能力があるということ。

***

紗英の尻に敷かれている姿しか知らないので、別人の話なのかと思ってしまう。
「主人公せつにぴったりだと思わない?都ちゃん」と重忠。
「…どのあたりが?」

どんな芸歴の声優でも、オーディションで役を勝ち取らねばならぬ、せちがらい業界。
その熾烈しれつな競争をくぐり抜けるためには、実力はもとより勝負強さやアピール力、人脈を築く力が必要とのこと。

「園田くんほどギラギラした新人、見たことなかったからね」
「おほめにあずかり、光栄です」
主人公は清濁せいだく合わせ持った、複雑なキャラだ。
野心家らしいこの声優との相性は、悪くない気がする。

初小説の次は、初脚本か。
アニメは門外漢だが映画や舞台は好きなので、都は率直に食指しょくしが動いた。
制作関係者と顔を合わせイメージをふくらませるのは、脚本を書き上げるのに役立ちそうだった。

(つづく)
▷次回、第4話「都、魅惑の接待を受ける」の巻。



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