Re:逃走癖女神 ⒋パラダイス接待 連載恋愛小説
近くのカフェにでも行くのかと思っていると、園田朔久は小さな洋菓子店に都をいざなった。
黒を基調としたシックな内装で、きらびやかなケーキがおしとやかに並んでいる。
「わ…すごい。おいしそー」
表現者とは思えぬ幼稚な感想とともに、都はガラスケースに張りついた。
「確認し忘れたんですが、このあと時間ありますか?」
テーブルにつくと、出てきたのはスムージーとプティフルール。
キャラメルマカロン、カヌレと林檎のミニシューが、宝石箱に入って登場。
「え。スイーツのフルコース…?もしかして」
「ご明察」
「やったあ。来てみたかったんだー」
敬語も警戒心もすっかり忘れ、都は有頂天に。
魚屋のおっちゃんみたいな風貌のパティシエが、それらしくシェフ帽をかぶり、一品ずつ運んできてくれる。
ひとくちサイズのスイートポテト、キャラメルプリンにぶどうのフルーツサンドまで。
食器は黒っぽい突き放し系デザインで、主役を引きたてまくる。
***
メインは、シャインマスカットのパルフェ。
「これ浮いてるよ?どうやって食べる?」
笑ったのをごまかすためか、朔久はシャンパンを口に含んだ。
これはいわゆる、パティスリー系パフェだ。
クリーム、ムース、ジュレなど複数の素材が美しく層を成し、その頂を彩るのは、精巧な飴細工とメレンゲに浮かんだつややかなぶどう。
次々に変化する香りと味わいに、しゃべるのがもったいなくなってくる。
とろりとしたコンポートや、ザクザクしたクランチ。食感も楽しすぎる。
***
「お気に召していただけたようで。椎葉さんが無類のスイーツ好きだと、住吉プロデューサーに伺ったので」
リサーチ力すげえな、この男、と都は感心しきり。
いくら相手が甘党だからといって、思いつくのはせいぜい菓子折りくらいだろう。
こんな隠れ家をセレクトするところが、抜け目なさを雄弁に物語っている。
絵に描いたような接待だなと思いつつ、サイコーだったので文句は言えない。
(つづく)
▷次回、第5話「都、沼に落とされる」の巻。
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