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小鳥カフェ トリコヤ ⒔インコ、バズる 連載恋愛小説 

遅番だったので午後から店に出ると、大あわての柚葉が走り寄ってきた。
「店長、見ました?」
「ん?何を?」
「今朝知ってめちゃ驚いたんですけど。オカメインコさん、バズってます!」
どんなインコ動画かと、柚葉のスマホをのぞかせてもらう。

「キレッキレ!どうなってんのか何回も見たくなるから、再生数エグイ」
映っていたのは、どこかのライブハウスで創史そうしが演奏している姿。
超絶技巧ギタープレイ集と銘打って、何本もアップされていた。

ものの数分で、昔バンドをやっていたこと、かつてのヒット曲のMVなどを、柚葉が芋づる式に見つけ出す。
そして聞こえてきた、伸びやかな女性ボーカル。
言われなくてもわかった。声質が似ていると。

***

「契約破棄します」
面と向かって言う勇気はなかったので、電話にした。
まだ自信が持てていないことを知っているからか、相手はまともに取り合ってくれない。
「声すら好きじゃなかった、ってわかったんで。全部やめます」

そこで、やっと創史のトーンが変わる。
「意味わかんないんだけど」
「こっちのセリフです」
通話を切って、その場で番号を拒否設定にする。
衝動にまかせた極端な行動を、かの子はひとごとのように感じた。

***

恋に落ちる瞬間がわかっていれば、深みにはまる前に抜け出せたかもしれないのに。
ただ流されているだけのつもりが、ここまで好きになっていた。
「身代わりってキツイよなー」

小鳥スタッフたちは寝静まっていて、なんの反応もない。
柚葉が帰ったあとブラインドを下ろし、かの子は店内でダラダラした。
家に帰る気になれず、更衣室兼休憩室で夜を明かすことにする。

(つづく)


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