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【連載小説】CANCER QUEEN

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がん細胞のクイーンが、がん患者のキングに恋をしてしまい、なんとか彼の命を助けようと奮闘するSFファンタジー小説
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2024年7月の記事一覧

CANCER QUEEN ステージ Ⅱ 第7話 「逡巡」

CANCER QUEEN ステージ Ⅱ 第7話 「逡巡」

 

 がん病棟は出入りが多い。前回も同室だった窓側のベッドの新田さんはめでたく退院した。
おめでとうございます。また戻ってこないことを祈ります。
キングはさっそく新田さんのいた窓側に移らせてもらった。どうせなら、外の景色を楽しめるほうがいいわね。

キングのいたベッドは、その日の午後には埋まった。今度の古田さんはさっきから、やたらに咳をしている。頑固に絡む痰を無理に出そう

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CANCER QUEEN ステージⅡ 第8話 「抜歯」

CANCER QUEEN ステージⅡ 第8話 「抜歯」

退院の翌日、キングは久しぶりに出勤した。
出勤簿には年休と療養休暇のスタンプがずらりと並んでいる。そのわずかな隙間に、出勤した日を示す印が、申し訳なさそうに押してある。
キングは職員一人ひとりに経過を報告して回った。みんなはいつもどおり温かく迎えてくれる。
世間ではがんになると職場にいずらくなって、退職を余儀なくされる人も多いというのに、キングは恵まれているわね。

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CANCER QUEEN ステージⅡ 第9話 「抗がん剤治療」

CANCER QUEEN ステージⅡ 第9話 「抗がん剤治療」

 退院から2週間が過ぎた。奥歯を抜いたあと、ぽっかり開いた大きな穴からは1週間以上も出血が続き、その後、完全に痛みが治まるまでには、さらに1週間が必要だった。キングは以前にも奥歯を抜いたことがあるけれど、今回は血栓予防薬のワーファリンの影響なのか、とりわけ出血と痛みがひどかったようね。

 結局、抗がん剤治療の前に、血栓治療と抜歯のために2週間も入院するという思いがけない回り道をしたけれど、今度こ

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CANCER QUEEN ステージⅡ 第10話 「副作用」

CANCER QUEEN ステージⅡ 第10話 「副作用」

 
キングが初めての抗がん剤治療で入院してから、今日で6日目になる。日曜日の病棟はまるで生徒のいない学校のように、ひっそりと静まり返っている。いつもの看護師さんたちの賑やかな笑い声も、ほとんど聞こえてこない。

心配された副作用も、今のところたいした症状は出ていない。強いて言えば、数日前から続いている便秘くらいかしら。キングは今朝、1時間近くもトイレでねばっていたけれど、成果は出な

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CANCER QUEEN ステージⅡ 第11話 「再会」

CANCER QUEEN ステージⅡ 第11話 「再会」

6回目の入院が始まった。今回は1週間の予定。ドクター・エッグは前回のキングの様子から、副作用の処置は通院で大丈夫だろうと判断したらしい。
今回も病棟は7階だった。キングは荷物の整理を終えてから、ナースステーションにシャワーの予約を入れに行った。

「大王さん、さっそく予約ですね。もう慣れたものですね」

 と、看護師さんが声をかけてきた。

「はい。勝手知ったる他人の家ですから」

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