ローマ帝国とポルトガル(2)属州・管区・都市
00.はじめに
ここでは、ポルトガルの歴史についてお話しした際のメモ書きを公開しています。今回はローマ時代を扱った部分です。なお、メモ書きは、アンソニー・ディズニー著『ポルトガルとポルトガル帝国の歴史』に基づいて作ってあります(ほぼ翻訳になってしまっていて、反省ですが)。関心のある方は、Anthony Disney, A History of Portugal and the Portuguese Empire(2009)をご覧ください。
前回は以下のとおりです。
前回は現在ポルトガルと呼ばれている場所がローマ帝国によって征服される過程を考えてきました。
今回は、征服後、ポルトガルと呼ばれている地域がどのように支配されていたのかを確認します。
アウグストゥスによる平定後、ローマはポルトガルを長く平和に支配していきます。ローマの攻撃は非常に激しいものだったのにもかかわらず、次第に西イベリアの人々はローマ市を世界秩序の象徴として敬意を払うようになりました。
では、現在ポルトガルが含まれる地域は、ローマ帝国でどんな位置づけにあったのでしょう。
ローマ帝国は、その領土を、三つのレベルに分けて、管理しました。属州、管区、都市です。これはローマに支配された現在のポルトガルがある地域でも同じです。
以下、現在のポルトガルがある地域が属した属州、管区、都市について見ていきましょう。
01.属州のなかのポルトガル
すでに述べましたが、ヒスパニア(イベリア半島)は、2つの属州に分けられました。それぞれキテリオールとウルテリオールと呼ばれています。それぞれ属州には総督が置かれました。総督の権力の権限は軍隊にありました。総督は軍を指揮していました。
やがてイベリア半島のローマ領が拡大すると、属州はさらに分割され、統治されることになります。アウグストゥスはウルテリオールをルシタニアとバエティカと呼ばれる新しい属州に分割しました。
ルシタニアは、現在のポルトガルの南部と中部のほとんどと、現在のスペイン南西の一部を含みました。ルシタニアの主都はメリダに新しくつくられました。
バエティカは、現在のポルトガルの南東部を一部含んでいるようですが、その大部分は現在のアンダルシア地方です。
そして、現在のポルトガル北部は、タラコネンシスに含まれました。ただし、後284年から後248年にタラコネンシスが再編され、3つに分かれました。そのうち、現在のポルトガル北部は、属州ガラエキアに属することになりました。属州ガラエキアの主都は現在のブラガに置かれました。
02.管区
属州はさらにコンウェントス(管区)と呼ばれる行政上の単位に分けられて、統治されました。コンウェントスはアウグストゥスが導入したとされますが、ウェスパシアヌスの時代(後69年~後79年)になって制度化したと考えられています。
現在のポルトガルにあたる地域を管理していたルシタニアは、三つの管区から成っていました。パケンシス、スカラビタヌス、エメリテンシスです。それぞれその主都はベージャ、サンタレン、メリダにありました。
一方、現在のポルトガル北部にあたる地域を管理していたタラコネンシスは、7つの管区からできていました。そして、タラコネンシスが再編されたガラエキアには3つの管区が置かれました。このうち、現在のポルトガル北部のほとんどすべてがブラカレンシスとよばれる管区に含まれていました。ブラカレンシスの司令部は、現在のブラガ(ブラカラ)におかれていました。
こうした管区は議会によって運営されていました。それぞれの管区がそれぞれの議会をもっていたのです。議会は、その領内にある都市の代表となる名士によって構成されていました。
03.都市
管区の議会に代表者を送り出したのが、都市(キウィタスcivitas)でした。都市は、いつでも町の中心部とその周辺で構成されました。ポルトガルのローマ史家アラルカンAlarcãoによれば、属州ルシタニアには、少なとも24の都市があったとされます。
大きな都市をあげると、オリシポOlisipo(現リスボン)、エウォラEvora(現エーヴォラ)、サラキアSalacia(現アルカセル・ド・サル)、スカラビスScallabis(現サンタレン)、アエミヌムAeminum(現コインブラ)、オッソノバOssonoba(現ファロ)、セリウム・ポルトゥスSelium PortusとカレCale(現ポルト)などがあります。
一方で、属州ガラエキアには都市が現在のブラガ(ブラカラ)しかありませんでした。また、ブラガ(ブラカラ)は例外的に大きな支配領域をもったことで知られます。その理由は、ドウロの北部の社会が非常にばらばらだったということと、ローマ帝国の進出以前に大きな町が存在しなかったためだと考えられています。
(3)に続く
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