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外国人観光客の頭の中はクエスチョンマークだらけ!?~観光立国を目指す日本よ、それでいいのか?~


浮世絵って面白い

 先日、太田記念美術館へ「深堀り!浮世絵の見方」を観に行ってきた。浮世絵に関しては特に知識があるわけではないし、前準備もせずにふらりと訪れたのだが、これが個人的にものすごく面白かった。

 同じ構図の、最初のほうに刷られたものと、だいぶ後に刷られたものが2枚並べて展示してある。版を重ねるごとに色や線が異なっていたり、職人の手抜きによるものなのか、色合いや微妙なぼかしが無くなっていたりする。何らかの事情で傘に書かれた文字が違っているものも。

 他にも、線の細さや細かさ、色の違いによる雨の表現、女性の生え際の髪の毛の表現(1㎜に3本も!)の素晴らしさ。

絵師を支える存在

 浮世絵がこんなにも面白いものだったとは思わなかった。絵師である広重や北斎といった人物しか知らなかったのであるが、彼らの細やかな表現を表わすために、彫師や摺師(すりし)の為せる技、否それ以前に彫師や摺師の存在を思ったことはなかった。

 特に線など木版を彫っていく際に凸で表現していくので、卓越した技が必要なのだそう。そう理解してから改めて絵を見ると、すーっと細く長い線で表わす雨、ふわりと曲がる蚊帳の網、女性の美しさを表現する髪の毛の生え際など、改めてそのすごさに食い入るように見てしまう。

なぜ?足早に通り過ぎる外国人観光客

 さすがにジャポニズムとして影響を与えた浮世絵だけあって、海外からの観光客と思しき人達も来館していた。ところが彼らは、展示に顔を近づけて見入る日本人の後ろから「ふーん」と眺めるだけでさっさと過ぎ去ってしまう。こんなにも面白く見どころ満載というのに、なぜだろうと思ってハタと気づいた。

 英語の解説文がないのである。英語表記は絵師の名前とタイトルだけ。どおりでスーッと通り過ぎてしまうわけだ。浮世絵の知識が全くない筆者がここまで楽しめたのは、ひとえに絵の隣に掲示してある解説パネルのおかげだ。左右でどのように違うのか、なぜ髪の毛や網の目、雨の線に注目すべきなのかなど詳しく書いてある。おかげでグイグイ引き込まれていった。

 外国語による解説文がなければ、よほど浮世絵に関する知識がない限り、このグイグイ引き付けられる面白さは理解できないだろう。だから彼らは、食い入るように見入る我々日本人の後ろをすーっと通り過ぎていくだけなのである。たまにジッと絵を観る人がいても、「よくわからない」とでも言いたげに首をかしげて次に行ってしまう。

ただ「遠目に眺める」だけの外国人観光客

 過日訪れた民芸館でも同様だった。民芸館ではあえて日本語の解説文もない。それは、見たまま感じたままを大切にというコンセプトであえてそうしているらしい。

 だが、日本人でもよほどの民芸好きでない限り、展示品の面白さ、重要さ、貴重さに気づけないように感じた。開館当時のコンセプトがそうだったとしても、時代に合わせ柔軟に変えていく必要があるだろう。

 ここでも外国人は、さらさらっと観てまわるだけ、それも遠目に見てまわるだけの人が多かったように感じた。中には手持無沙汰に椅子に座っている人までいたのだから、なんとも勿体ない。

 せっかく海外から足を運んでくれたというのに、彼らの頭の中はクエスチョンマークだらけ、面白さに気づくこともなく去っていく。これのどこが「観光立国」なのだろう。むしろ、機会損失ではなかろうか。

英訳に資金援助を

 私設の小さな美術館などは、運営が難しいのかもしれない。企画展ごとに英訳をする予算はないという声が聞こえてきそうである。日本語の解説だけで精一杯だと。ならば、「観光立国」を謳い「インバウンド」を提唱する国が支援してはどうだろう。

 たとえば、令和5年度の観光庁による「インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」の概要にある「類型②インバウンド販売モデル構築型」には、

 ・販売モデル構築を実施する旅行商品に対する、インバウンド受入の為の 
  他言語化を実施すること。
 ・プロモーションを行う場合にはインバウンド向けに他言語による情報発
  信を行うこと。

 とある。

 こういうのを利用して、あるいはもう少し対象枠を拡大して、私設の小さな美術館や民芸館、博物館、植物園などを支援していく。特に日本に関する展示であれば、無条件に100%の費用負担をしていく努力があってもいいかもしれない。

企画展ごとに対応、常設展には英語の音声ガイドも

 常設展だけではなく企画展ごとに英訳の補助をしていく。逆に常設展に関しては、音声ガイドの英訳版も対象にすればいい。内容によっては、カタログの英語版に対して補助を出すのもいいだろう。

 美術館の大小、公立、私設に関わらず積極的に資金面での支援をしていけば、外国から訪れた人たちも、たっぷり日本の美術を、あるいは日本文化をより深く、より楽しめるというものだ。

 補助金として出すと、使途不明金として使われる可能性があるというのであれば、企業の経理部と同じような部署を観光庁の中に設け、請求書とその内訳がしっかり記載されたものに対して、観光庁が支払うようにしてもいいだろう。そのぐらいの柔軟な対応があってもいい。

食べ物屋ばかり!?だけじゃない日本に

 「日本の旅行ガイドブックってさ、なんで食べ物屋ばっかりなの?」

 そう海外出身の日本在住者に言われて言葉に詰まったことがある。そう言われてみれば、外国のガイドブックは、観光施設や街並みなど見所に対しての解説が多く、食べ物屋が載っていることは少ない。ということは、海外の人は食以外の物に対しての興味が深く、旅行といえば文化的、歴史的遺産を見てまわるもの、という意識が強いのかもしれない。(日本食を堪能することも目的の一つに挙がっているだろうが。)

 であれば、なおさらこういう対応は必要不可欠ではあるまいか。せっかく日本を訪れ、日本をもっと知ろうと小さな美術館にまで足を運んでくれた人達に、クエスチョンマークだらけで足早に去られるよりは、ずっと日本を楽しんでもらえるし、もっと深く知ってもらえる。何より「訪れて楽しかった、充実していた」と満足してもらえるだろう。

 日本にとっても旅行者にとっても、私設の小さな美術館などにとっても、みんながハッピーな結果になるのではないだろうか。観光立国にしていくのなら、観光客にもっと寄り添ったインバウンド向けの取り組みがあってもいいと思うのだけど。観光庁さん、いかがですか。

<参考URL>
観光庁 令和5年度「インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」
https://inbound-contents.snavy.jp/


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