惨敗と手品師
当時は動画サイトはおろか、ネット環境も整ってない頃です。
関西で手品をしていた僕の名前は人伝えに関東にも届いていました。
「関西に凄い人が二人居る。紀良京佑って人と○○って人だ」という話が東京にも流れていたそうです。
ちなみに○○とは僕の本名でした。ある人が「凄い人が何人も居たらイヤだから、同一人物で良かった」と言われた事があります。
そんな中、定期的にお客さんの前で演じる事になりました。
何をしようか考えて、お客さんの前で演じる。
次回は何しようか考える。お客さんの前で演じる。
それが、全然ウケません。
何をやってもやってもウケません。
毎回ウケません。
ショー形式で演じていたのですが、大体手品師3人+αって感じで演じていて、役割がありました。
1人目はお客さんを掴む役割、3人目はショーを盛り上げ満足してもらうのが役割。
…で、2人目は特に無し…。
要するに掴める人がトップを務め、凄い人が3人目を任されます。
2人目は時間つぶし的な感じです。店に来てもらって手品師が2人だと少なく思われるかも知れないので、とりあえず穴埋めの様な感じです。
僕は毎回2人目です。
お客さんから歓声も無く、拍手もまばらに終わります。
それが毎回です。
手品に勝敗はありませんが、あえて書きます。
惨敗続きです。
今までやってきた事は何だったのか?
手品仲間にはウケるのに何故なんだ?
手品の先輩に会った時に、『今までやってきた事はすべて無駄だった』と嘆いた事もあります。
出番が終わった帰り道、気が付いたら家に着いていて、どうやって帰ってきたか覚えてない事もありました。
『これやったらウケるだろう』と思い、練習してやってもあまりウケない…。
毎日2人目。ウケないまま終わる。家に帰る。
そんな日々の中、何気なくテレビを見てました。
テレビである無敗の格闘家のドキュメンタリー番組をやってました。
インタビュアーが質問します。「あなたは、どうやって強くなったのですか?」
その時の格闘家の答えは未だに覚えています。
格闘家『強くなろうと思って強くなったのではない。自分の負けるところを無くしていった結果、強くなってたんだ』
その言葉には何かがありました。
圧倒的な何かがありました。
僕の中で何かが変わりました。
ウケようとばかり考えていた自分が変わりました。
ウケない所から削っていきました。
削った部分に何を入れるか?
「この手品は簡単やのにウケるなぁ」なんて先輩が言ってた手品も、自分が一目で分かるからと頭に残ってなかった事に気付き、反省し、思い出して練習しました。
手品を見て、自分が面白いかどうかと言う判断でしか見てなかった事を反省しました。
その頃からです。少しずつお客さんの反応が変わってきました。
格闘家の名前はヒクソン・グレイシー。
格闘家と手品師。一見何の関係もないのですが、彼の言葉に救われて、彼の言葉で何かが変わりました。
一つの言葉で何かが変わり、影響を与える。
その事を意識して、今、僕はここに書いている。
読んでくれている人の為に
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