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読書感想 横光利一 時間

 横光利一の短編小説です。こんな不思議な小説初めて読みました…。


 この作品は旅芸人一座の12人の男女が共に夜逃げをする物語で、極限状態にある人間の心理や、彼らが不幸に見舞われるたびに起こす行動がかなり細かく描写されています。それにも関わらず、それほど陰湿な印象はなく、むしろユーモアに富んでいて笑える部分があるように思えます。(私には)


 夜逃げの道中互いに疑心暗鬼になったり、急に結束が深まったり、そうかと思えば殴り合いの喧嘩に発展したり、
生きるか死ぬかの壮絶なストーリーに反して、笑いあり涙ありみたいな物語として受け取れてしまうのです。非常に不思議な作品です。


 何故そのように受け取れるかというと、語り手の「私」が妙に冷静で常に状況を俯瞰して見渡しているからのように私には思えます。「私」も彼らと行動を共にし、生死を分かつ運命さえも共有している立場なのですが、まるで傍観者のような描写なのですね。

 ですが、そんな淡々とした描写のなかに「私」の人間臭さが混じっているように思います。その人間臭さは良心を伴っているのですね。そんなところが読者を引き込むのかなぁと感じました。

 これ、多分人によって全っ然違う感想が出てくると思うんですね。不思議な読後感です。私も読むたびに微妙に印象が変わってきています。奥深い作家ですね。しばらく横光利一特集になりそうです。すみません。笑

 読んでいただきありがとうございます。
皆様の今日が良い一日となりますことをお祈り申し上げます。


創作大賞2023に応募しています。
ご一読いただけると幸いです。


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