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読書感想 菊池寛 恩讐の彼方に

菊池寛の代表作ですね。

仕えていた主人の妾と密通していた主人公が、主人ともめた末に斬り殺してしまいます。
主人公は妾とともに逃亡し、生活のため、悪事を働くようになります。
二人は昼間は峠の茶屋を営むかたわら、旅人を殺して金品を奪って生活します。

主人公はある日、若い夫婦を殺したことをきっかけに、女(主人の妾)との荒んだ生活に激しい嫌悪感を抱きます。

主人公は女のもとから逃げ出し、
出家し、罪滅ぼしを始めます。

罪滅ぼしに、年間数人の転落者が出る断崖絶壁の難所にトンネルを開通させるのです。手掘りで、21年かけて。
半分屍のようになりながら、来る日も来る日も毎日掘り続けます。

のちに、主人の息子が仇討ちにトンネルに現れるのですが、主人公のその姿、その行動を見るうちに、和解していきます。

ついに手掘りのトンネルが開通し、物語は終わります。



主人を裏切ったうえに斬り殺し、罪のない人を金品目的に10人以上手にかけた男です。

その男が、人様の安全のために20年以上にわたってトンネルを掘り続けるのです。

魔が差すきっかけは些細なものかもしれませんが、改心するきっかけは結構キツイ出来事が多いと思うのですが…。

この物語の主人公の改心のきっかけとは。

主人公は、若い夫婦を殺して金や衣服を奪って茶屋に戻ったところ、女に、殺した若い女の頭のもの(簪とか?)を奪ってこなかったことをなじられます。

女は主人公が頭のものを奪いに死体のところへ戻らないのがわかると、自ら奪いに出掛けます。 

若い人間を殺めたことに対する罪悪感に苛まれながら、それこそ下着まで身ぐるみはがしてきたのに、「頭のものはどうしたんだい」と責められて、
「この女は骨までしゃぶりつくすのか…!」
と思うのですね。

命を賭してまで得た女のそのような行動を見て、かつては愛情があっただけに、心の底から浅ましく思わずにはいられなかったんですね。

なんていうか……、わかる気がしますよねぇ……。 

ふとしたきっかけで、魔が差すこともあるし、逆に魔から解き放たれる瞬間もあるみたいですね。
それは、自分自身の意思をも超えた、人智を超えた何かの采配かもしれませんね。 











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