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読書感想 芥川龍之介 玄鶴山房

芥川龍之介の晩期の短編小説です。
自死する半年前に書いた作品みたいですね。

玄鶴山房に住む家族の、それぞれの内に秘めた思いが丁寧に描写されています。

ゴム印の特許により財を得た玄鶴は肺結核にかかり、余命幾ばくもない状態です。そして玄鶴の妻のお鳥も七、八年前から腰抜けとなり自分ではトイレにも行けない状態です。二人は屋敷の離れに住んでいます。
母屋には長女夫婦、夫婦の一人息子、女中、老夫婦の世話をする住みこみの看護婦が住んでいます。

そこへ、玄鶴が数年前まで妾宅に囲っていた妾のお芳が、玄鶴の子を連れて介護を手伝いにやってきます。

なんでしょうこの気まずい人間関係……
現代だったら、手を切った愛人が隠し子を連れて旦那の介護を手伝いにやってくるなんて、なかなかない設定だと思いますが、この当時は家で最後までお世話したんですもんね……。
さぞかし大変だったのでしょうね。

この一家は、お芳がやってきて険悪な空気になろうとも、直接言い争いはしないんですね(子供以外)
それぞれがお互いの出方を見ながら、肚を探り合う感じに思えます。でもそれも、保身のためというよりは、相手を思いやっての結果に思えます。そのへんが、なんていうのでしょうね、とても意味深に書かれています。

この物語は、玄鶴の苦しみがメインに書かれてるように思います。(浮気されたお鳥じゃなくて??と思いますよね……)

なんせ自分が巻いた種で家族が揉めてても、もはやどうすることもできないのだから。 
 玄鶴は浅ましい自分の人生を振り返ります。そしてもう間もなく訪れる死が唯一の希望のように思います。

玄鶴はさらし木綿を首に巻いて自殺を図ろうとしますが、看病されるような体ゆえ、それすらも叶いません。

家族を顧みない、自分のことしか考えない男だったならば、そんなに苦しまないと思うのですね。例え病床で弱気になったとしても。

芥川龍之介は、玄鶴の立場の辛さを自殺を試みるほどの苦しみだと認識したんですよね。そのあたりが、芥川龍之介が優しくて繊細な心根の持ち主だったのだろうなと想像してしまいます。


自分が直接いじめられるより、自分の大切な人同士がモメる方が辛い時がある気がします(例えば、嫁と姑の間にはさまれる旦那さんとか、再婚相手と自分の子供がうまくいかない場合とか)自分の努力ではどうにも出来ない時ってあるじゃないですか。それならば自分が被害者の方が、ある意味精神的に楽な場合があると思うのです。

でもこれは、芥川龍之介や私みたいな特殊な陰キャ独特の考えかもしれないですけどね。

私はこの作品を読んで、「こんな家庭の微妙な問題をわざわざ小説にしなくても」とは思えないのですね。逆に、よくぞこんな微妙な人間関係を描写出来るなあと感服しました。さすがは文豪。

結構暗いお話なので、読むときは注意してくださいね。


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