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読書感想 九段理江 東京都同情塔

九段理江さんの芥川賞受賞作品です。
全文掲載されている文藝春秋を立ち読みした際に、端正で読みやすい、流麗な文章を書く作家さんだなあ…凄いなあ…と思いました。

芥川賞選評や、ご本人のインタビュー記事も読みたかったので、結局購入してしまいました。

「AIが書いた小説」というフレーズが独り歩きしている印象ですが、実際には小説内に生成AIが出てくる場面にのみ、AIの文章が使われているに過ぎないんですよね。

この作品は新国立競技が建設された東京を舞台に、新宿にあらたに建設予定の犯罪者を収容する施設「シンパシータワートーキョー」(東京都同情塔)の設計に意欲を燃やす建築家、牧名沙羅と、彼女が気に入って交際(ていうかママ活?)を始めた22歳の美しい青年、拓人の物語です。

物語というより、語り手の無機質で乾燥気味の心理描写が大半を占める、壮大な自分語りみたいな作品です。すごく熱量を伴っている思考が、AIを彷彿とさせる血の通わない硬質な文体で表現されているので、そのアンバランスさがとても不気味に感じます。でも恐らく、それも作者の狙いのひとつなのでしょうね。私はこういう作風が大好きです。


続きが気になってしまうような、乱高下する展開がなくても、刺激に富むアクション描写がなくても、
澱みなく流れる文章に惹き込まれてつい文字を目で追ってしまいます。これって凄いことですよね。


で、大御所作家さん達の書評を見て、なるほど…と思いました。

「人間的な息遣いを感じられなかった。心からにじみ出てくる声なき声をききたかった」

「ディストピアに生きる当事者たちの狂気や抵抗をもっとアクションとして作品に盛り込んでいたら、より多くの読者のシンパシーを獲得できたはず」

という意見もあり、確かにな…、と思いました。

まあその意見にも頷けますが、
それらを差し引いても余りある魅力を備えた、圧倒的な描写力だと思いました。多様性を認め、少数派や弱者を慮る現代に放たれた、鋭いメッセージ性を秘めた作品だなあという印象です。


読んでいただきありがとうございました!




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