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読書感想 松本清張 小説帝銀事件

数ある松本清張の作品の中から何故これを選んだ??って感じですよね。

子供の頃、テレビで放送されていた映画
「鬼畜」をチラっと見て、それが強烈なトラウマとなり、それから松本清張の作品はなんとなく敬遠してました。
あれ、現代じゃ絶対に放送出来ないやつだよなあ……と思います。

kindleUnlimitedで読み放題になっていたのでなんとなく読み始めたら、とても面白くて一気読みしてしまいました。

帝銀事件(ていぎんじけん)とは、1948年(昭和23年)1月26日に東京都豊島区長崎の帝国銀行(三井銀行を経て現在の三井住友銀行)椎名町支店(1950年に統合閉鎖され、現存しない)に現れた男が、行員らを騙して12名を毒殺し、現金と小切手を奪った銀行強盗殺人事件です。(Wikipediaより)

 綿密な取材のもと、この事件の事実のみが多角的に書かれている印象です。
ですが、この作品はタイトルにもある通り「小説」なのですね。ノンフィクションではないらしいです。私の理解が浅くて、この作品の立ち位置自体がよくわからないまま読みましたが、それでも充分楽しめました。

犯行の手口から、犯人は旧軍の関係者か医学、薬学の知識を持つものではないかと考えられましたが、逮捕されたのは画家の平沢という男でした。
平沢には死刑判決が出ますが、無罪を主張し刑が執行されないまま95歳で獄中死しています。

この作品を読んで私が一番怖いなと思ったのは、人間の記憶の曖昧さであり、その曖昧な記憶を証拠のひとつとして加える危うさです。

平沢が有罪判決に至ったのは、自白と状況証拠だけなのですね。現在だったら科学的な技術で物的証拠を掴めるのだと思いますが、なんせ70年以上前です。

生存者の記憶や筆跡鑑定を根拠にしています。アリバイにしても、防犯カメラなどもないわけですから結局は個人の記憶を辿るしかないわけです。
何か印象に残る出来事があったのならまだしも、警察官とか特殊な仕事をしていない限り、普段そんなに他人の行動なんて見たり気にしたりしないじゃないですか。
人の顔なんてよっぽど特徴がなければ覚えてないじゃないですか。特に女性は髪型や服装が変われば印象なんて180度変ったりしますし。
そんな人びとの曖昧な記憶の積み重ねを証拠のひとつに加えなければならないって、恐ろしい事だなと思いました。でもこれは、現代でもあり得る事かもしれないなと思いました。木嶋佳苗死刑囚も、林真須美死刑囚も、状況証拠のみで死刑判決に至ったわけですもんね。(でもそれは、どーう考えてもこの人しか犯行に及ぶことが出来ないという状況が誰の目にも明らかだったということだと思いますが……)満員電車の痴漢だって、冤罪を立証するのは非常に難しいらしいですし。

あと一つ、凄いなと思ったのは犯行の手口です。単純に毒物を皆が食べる何かに混ぜた訳ではなくて、「近所で赤痢が発生したので、予防薬を飲んでください」といって、飲みにくい青酸化合物をその場にいた全員に飲ませたのです。
しかも、犯人自ら持参した薬物をみんなの前で飲んで見せて、飲み方の手本を示したのです。薬物をビンからピペットで吸い取って皆の茶碗に配ってるんです。そしてこれら一連の行動を全く動揺することなくやってのけてるのです。普通ちょっとでも怪しければ、飲まない人間もいると思うのです。

いや、まともな人間はこんなこと出来ないでしょ!!!

昔、救命処置などをしていて、医師に指示された注射などを用意する際、本気でブルブル手が震えたことがよくありました。これは本当に自分の手なのだろうかと疑うくらいガクガクブルブルします。

手が震えて、アンプルから薬液を注射器に吸えないの。
これは新人時代は誰でも経験することみたいです。

採血や点滴などの一発勝負芸は、ほんのちょっとでも「失敗するかも」という不安が頭をよぎると大抵失敗します。経験を重ねて、「自分に出来ない理由が見当たらない」くらい自信を持つこと以外、対処法はないように思うのです。
細かい作業を伴う行動であればあるほど、
メンタルがかなり影響を及ぼすと思うのです。

よっぽど手慣れた軍の関係者か、常識の範疇を超えた度胸を持ち合わしている者でなければ、こんな芸当は出来ないですよね。

当時は進駐軍の情報操作もあったようですし、真相は藪の中ですね。

とても面白かったです。久しぶりに超真剣に読みました。
ミステリー好きのくせに避けていた松本清張ですが、ほかの作品も挑戦してみようと思います!




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