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読書感想 谷崎潤一郎 蓼食う虫

谷崎潤一郎の作品のなかで一番すきかもしれないです。
流れるように美しい文章です。
瞳に映るもの、心で感じたことをこんな風に流麗な文章で的確に表現されたら、そりぁーあ平伏するしかないですよ。
「あっぱれです!!」と。(?)

 
さて、こちらの作品ですが、
夜の営みがなくなった夫婦のお話です。
夫が妻に女性としての魅力を感じなくなってしまいます。
やがて夫は妻が他の男性のところに通う事を黙認するようになります。(当時としてはすごいことのような気がしますが……)
夫も通っている女性がいます。


この夫婦はお互い、相手の事を大切に思っているから苦しいんですね。夜の営みがなくなったこと以外、双方不満はないわけです。

世の中上手くいかないもんですねぇ……。


現代だったら、子供もいるのなら、お互い合意の上で浮気をして、表面上家族としてやっていくのも全然アリなんじゃないかなあと思いますが、当時はそんなことは出来なかったんですかね?

夫は妻に好きな男が出来たことを知ったとき、
「自分はやっとひろびろとした野原の空気を胸一杯に吸うことが出来る」 
と思うのです。

それは彼が
負い目を感じていたからそう思うんですよね。


「ただどうしても妻を妻として愛し得られない苦しさの余りには、この気の毒な、可憐な女を自分の代りに愛してくれる人でもあったらばと、夢のような願いを抱きつつあったに過ぎない」
と書かれています。

相手をまるごと全部、完全に嫌いになったのならばかえって気持ちは楽なのかもしれないですね。

どうしても譲れないもののみが二人の間に欠落してるって……

そういうのって、自身の罪悪感も加わるから、余計に苦しいでしょうね。 


物語の後半に、夫が通っている女性が登場します。
この女性は、谷崎潤一郎氏に言わせると、
「酔わせ方の強い酒」なのだそうです。
ようは、会う前の愛しさと会ってからの胸苦しさ、その冷熱の度が激しい女性ということです。
彼女の家を去るとき、「もう二度とここにはこないぞ」と誓うのに、3日、5日、一週間とたつうちに、彼女に会いたい気持ちが馬鹿馬鹿しいくらい萌してきて、ずいぶん無理な繰り合わせをしてまで飛んでくる

そんな女性です(外国の方です)

男性のなかには心当たりがある方がいらっしゃるんじゃないでしょうか……笑
こういうことも、すごくわかりやすく書かれています。女性でも納得してしまいます。

こちらの作品は、主人公の心のありさまが、とても深く丁寧に書かれています。

「国を異にし、種族を異にし、長い人生の行路の途中でたまたま行き遇ったに過ぎないルイズのような女にさえも肌を許すのに、その惑溺の半分をすら、感じることの出来ない人を生涯の伴侶にしているというのは、どう思っても堪えられない矛盾ではないか」

なんて美しい文章でしょう……。

本当に素晴らしい作品なので、機会があればぜひ一度読んでみてくださいね。









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