【極超短編小説】納豆に手を伸ばしたときに始まった話の結末はボクに委ねられているのかな?④
ボクは姉貴の向かいの席に戻ると、姉貴のお冷をグビッと飲み干し、
「で、話の続きは?」
と少し投げやりな感じで言ってしまう。
「お母さんから納豆買ってきてって頼まれてたのよ。今晩はお父さんが納豆汁食べたいって言ってるからって。探すしかないじゃない、納豆。で、近くのコンビニに行ったのよ」
「えー!行ったの?スーパーの近くのコンビニ?!」
ボクのテンションは再び上昇する。
「行ったわよ。そしたらね、売り場の傍に豹のシャツのパンチパーマのオバサンがいるじゃない。スーパーで最後の一つを持って行ったオバサン。そのオバサンが両手に納豆持ってこっちに近づいてくるの」
「それで、それで」
でっかい豹の顔が胸にあるシャツでパンチパーマのオバサンが納豆を両手に持って近づいてくるシュールな光景を想像しながらも、ボクのテンションはさらに上昇。
「オバサンがわたしの横を通り過ぎるときにニコッて笑顔なの」
「それから、それから」
オバサンのことはもういいから、その次をきかせてくれ!とボクは心の中で叫ぶ。
「オバサンが通り過ぎた後、目の前に彼がいたのよ」
『キター!』とボクは心の中で叫んではいたけど、努めて冷静を装って、
「彼?」
「スーパーで会った彼よ!もう、これ運命?とか思うじゃない」
「スーパーで出会ったオタクの雰囲気のすごくタイプの彼?一目惚れの彼?」
「そう、その彼。で、彼もこっちを見てるの!」
「ちょっと待って!落ち着いて。ストップ!」
ボクは両掌を姉貴に向けて話を制した。落ち着くのはボクの方だった。て言うか、落ち着きたかった。
これから先の話は、姉貴から先に聞くべきか、あるいはファミレスで待っている彼から聞くべきか‥‥。ボクの心は震えていた。大袈裟だが。
「ごめん。すぐ戻るからちょっと待ってて」
ボクはカフェを出て、落ち着けと自分に言い聞かせる。大きくゆっくりと深呼吸をした後、ボクは彼の待つファミレスに向かった。
(つづく)
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