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【極超短編小説】納豆に手を伸ばしたときに始まった話の結末はボクに委ねられているのかな?⑤
「お待たせしました。ホントに何度も悪いね」
外で落ち着いたボクは彼の前に座りながら言った。
「‥‥」
彼から返事がない。
彼は頬杖をついて窓から外を眺めている。もしかして姉貴のこと考えてる?間違いない。そうだった、この彼には免疫がなかったんだ、女性に。
「お・ま・た・せ!」
「おぉ、悪い。気づかなかった」
「で、話の続きなんだけど。豹顔パンチオバサンの」
ボクはドリンクバーから持ってきたアイスコーヒーをストローでゆっくりと啜り、鷹揚な感じを出そうとする。
「オバサンがさ、レジの方へ歩いて行ったらさ、オバサンの向こうにさ、
いたんだよ。彼女が」
「彼女?」
ボクはわざとらしくらないよう気を付けて聞き返す。
「スーパーの納豆売り場で会った彼女だよ!」
彼は『こいつにぶいなぁ』という感じで語気強め。
「えー!マジですか?!」
はい、はい。来ましたよ。ここは大袈裟に驚いてみせるところでしょ。
「いや、驚いたよ。まさかの偶然!すごいタイプの一目惚れの女性だろ、これはもう行くしかないって思ったわけ。」
「それで?」
ボクは思わず食いつく。これは演技ではない。
「でもね、目が合ったんだけど、『ども』て頭下げて急いでコンビニを出ちゃったんだ」
「えー!声かけなかったの?何もしゃべらなかったの?」
「うん‥‥」
「なんでー?どうして?チャンスだったじゃん!」
「ストーカーと思われるんじゃないかと思って‥‥」
「そんなこと思わないって!」
ボクは思わず声を張り上げてしまう。
彼は窓から見えるドラッグストアを指して、
「あの店にも食品売り場があるじゃない。この辺りで納豆を売ってそうなのはあの店だけだと思うんだ。ここで‥‥待ってれば、また彼女に会えるんじゃないかと思って‥‥このファミレスに来たんだ」
彼の顔は紅潮している。
「もしその彼女に会えたらどうする?」
「声をかけたいけど。どう思う。相談したくてオタクを呼んだんだ」
彼の顔の赤さがさらに増す。
「声をかけるべきだよ」
「ストーカーって思われないかな?『キモ!』って思われないかな?」
「絶対にそんなことないよ!」
「でも、彼女はあのドラッグストアには行かないかもしれないし‥‥。そんなに都合よくは会えるかな?」
彼は消え入りそうな声だ。
「きっと会えるよ。二度あることは三度あるって!」
「もし、会えたら何て言ったらいいかな?」
「『好きになりました』でいいんじゃない」
彼には気の利いたセリフも駆け引きも無理。直球で十分だ(多分)。
(つづく)
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